アスピリン(アセチルサリチル酸),アスピリンアルミニウム


非ピリン系.サリチル酸系に属する酸性非ステロイド性の解熱鏡痛消炎剤.

主な薬理作用:(1) 抗炎症作用,(2) 鎖痛作用,(3) 解熱作用,(4) 血小板凝集抑制作用,
       (5) 尿酸排泄促進作用


鎖痛作用の発現機序:痛みの発生部位(末梢性)でのシクロオキシゲナーゼ活性阻害(セリンのアセチル化により不可逆的のその活性を阻害)によるプロスタグランジン(PG)合成阻害作用に基づく,主に末梢性の作用.

解熱作用の発現機序:中枢性のPG合成阻害作用により,上昇した体温調節中枢のセットポイントを正常レベルまで低下させ,熱放散を増加させ,体温を正常化する.


OTC製剤:解熱目的で感冒,大人のインフルエンザその他の発熱に用いられるほか,PGが関与すると考えられる頭痛,筋肉痛,関節痛などの軽度から中等度の痛みを緩和するのに有効.

月経痛のようなプロスタグランジンが関与する平滑筋の収縮によっておこる痛みにも有効であるが,その他の強い内臓痛には一般的に無効.


医療用アスピリン製剤:解熱鎮痛目的以外に,抗炎症作用を期待して慢性関節リウマチ等にも用いられる.

血小板凝集抑制作用を有することから,保健適応外の使用であるが抗血栓薬としての応用や,最近では妊娠中寺症の予防を目的として,アスピリンの少量(60〜150 mg/日)が連続投与されている場合がある.

血小板凝集抑制の目的で臨床応用される場合には,抗炎症を目的とする場合より少量であるため,医療用アスピリン製剤として「小児用バファリンR」が使用されることが多い.但し,OTCの「小児用バファリンC II R」(成分:アセトアミノフェン)とは成分が異なるので留意する必要がある.

血小板凝集抑制作用は,歯ぐき出血,鼻血など出血傾向の副作用をもたらすことがある.肝障害,ビタミンK欠乏症,血友病患者への使用は避ける.


アスピリンの薬理作用機序であるPG合成阻害作用は,生体内で他にも影響を及ぼし,例えばPGの胃粘膜の防御機構が抑制され,これが胃粘膜障害を引き起こしたり,また,腎障害などの副作用としてあらわれることがある.

アスピリンは胃粘膜への直接刺激作用も合わせ持つことから,胃腸障害が問題となる.これを軽減する目的で,胃での直接作用を減弱させたアルミニウム塩が市販されている.

胃での直接作用を軽減するため制酸剤を配合したものも市販されているが,胃粘膜障害の副作用を予防するためには,スクラルファートなどの胃粘膜保護剤を別に併用した方が効果的かもしれない.

胃腸の弱い人は空腹時の服用は避けた方がよい.


過敏性の副作用として,発疹(じん麻疹も含む),アナフィラキシーショック,アスピリン喘息などを起こすことがある(発現率0.2-0.9%). (表1:アスピリン喘息の発作誘発物質

アスピリン喘息は,アスピリン以外にも,インドメタシン,イブプロフェン等,PG合成阻害作用を有する非ステロイド性抗炎症薬で起こる危険がある.

発疹は重篤なアレルギー症状の初発症状である場合があり,発疹がみられたら直ちに中止する.

これらの副作用を未然に防ぐためにもアレルギー体質や副作用歴等の充分な問診が必要である.


妊婦への使用にあたっての問題

妊婦がアスピリン等の解熱鎮痛薬を服用し,胎児に移行した場合に,PG合成の抑制作用から胎児の動脈管が収縮し,胎児循環持続症(PFC)が発症する危険性が指摘されている.

アスピリンによる動脈管収縮作用は軽度であるが,PFC発症例も報告されており,特に妊娠末期の使用は避けるべきである.

 (表2:各解熱鏡痛剤の胎児動脈管収縮作用の強さ


アスピリン等サリチル酸系製剤の使用によるライ症候群発症の関連が疫学調査から疑われている.

ライ(Reye)症候群は,主に小児(6ヶ月〜15才)がインフルエンザ,水痘等の疾患の先行後に嘔吐,意識障害,けいれん,肝障害をきたす急性かつ死亡率が高い疾患.

このため現在では,小児用の一般薬には解熱鎮痛成分としてアスピリンが配合されているものは非常に少なくなっているが,小児への投与にあたってはこの点に注意する必要がある.


表1 アスピリン喘息の発作誘発物質

●非ステロイド性抗炎症剤(解熱鎖痛剤)

1)作用がとくに強力なもの

アスピリン、インドメタシン、ピロキシカム、フェノブロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナッタ、アミノピリン

2)作用がかなり強いもの

メフェナム酸、フルフェナム酸、フェニルブタゾン

3)作用が弱いかほとんど認められないもの

アセトアミノフェン、サリチルアミド、メビリゾール、塩酸チアラミド

     (臨床と薬物治療、10 (5), P.81 (1991)より)

 

表2 各種抗炎症薬,臨床常用量における経胎盤性ラット胎仔動脈管収縮作用の強さ

動脈管収縮度

動脈管内腔/主肺動脈内径

抗炎症薬

高 度

0.4〜0.7

ジクロフェナクNa,クリダナク,インドメタシン,メフェナム酸,フェンプフェン,ケトプロフェン,ナプロキセン,イブプロフェン,フルフェナム酸,グラフェニン

中等度

0.7〜0.9

スリンダク,ピロキシカム,フェニルブタゾン,オキシフェンブタゾン,フルフェナム酸Al,メチアジン酸,ベタメタゾン

軽 度

0.9〜1.0

アスピリン,サリチル酸ソーダ,アスピリンアルミニウム,スルピリン,アセトアミノフェン,フェナセチン,ブコローム,イソプロピルアンチピリン,塩酸チアラミド,ヒドロコルチゾン,プレドニゾロン,サザピリン

な し

1.0〜1.1

サリチルアミド,クエン酸べリソキサール,メぺリゾール

   (対照:1.05+0.02) 経口投与4時間後、*は皮下注射4時間後          

        (臨床医薬情報、6(2), p. 56 (1987) より)


参考文献:

・堀 美智子監修,OTC ハンドブック 1999-2000  −基礎から応用まで−

・田中千賀子,加藤隆一編,NEW 薬理学 改訂第3版,南江堂,1996

・第12改正 日本薬局方解説書,廣川書店,1991