脳血管障害

NINDS-III による脳血管障害の臨床病型
 

A.無症候性
B.局所性脳機能障害
 1.一過性脳虚血発作
  a.頸動脈系 b.椎骨脳底動脈系 c.両動脈系 d.動脈系不明 e.一過性脳虚血発作疑い
 2.脳卒中
  a.経過:  1)改善型 2)悪化型 3)安定型
  b.脳卒中の病型
   1)脳梗塞
    a)発生機序:(1)血栓性 (2)塞栓性 (3)血行力学性
    b)臨床概念:(1)アテローム血栓性 (2)心塞栓性 (3)ラクナ (4)その他
    c)部位による症侯:(1)内頸動脈 (2)中大脳動脈 (3)前大脳動脈
              (4)椎骨脳底動脈系:(a)椎骨動脈(b)脳底動脈(c)後大脳動脈
   2)脳内出血 3)くも膜下出血 4)脳動静脈奇形に伴う頭蓋内出血

C.血管性痴呆
D.高血圧性脳症



一過性脳虚血発作(TIA)
 一過性脳虚血発作は、脳虚血によると考えられる局所脳神経症状が一過性に出現し、24時間以内に完全に消失されるものとされている。
 その成因により、微小血栓性と血行動態性の2つに大別できる。
 約80%は内頸動脈系で発生し、残りの約20%は椎骨動脈系に発生する。

 

原因

・微小血栓性:脳主幹動脈の粥状硬化により生じた凝血塊断片が微小塞栓として、脳内末梢動脈を一時的に閉塞。
・血行動態性:脳主幹動脈の高度の狭窄又は閉塞(頻度は少ない)。

症状

・運動障害、知覚障害、失語等が現れる。これらの症状は、発症から5分以内(多くは2分以内)に完成し、24時間以内(多くは1時間以内)に完全に消失する。
・TIAは、脳梗塞の前駆症状として重要(反復性TIAの1/3が脳梗塞に移行)

治療法

・再発防止及び脳梗塞の予防が治療の目的となる。
  抗血小板薬(アスピリン、チクロピジン)
  ヘパリン(外科手術前後の短期間)
  ワルファリン(心原性の場合には再発防止目的で少量投与することもある)



脳梗塞
 脳血管の狭窄または閉塞により、血流が途絶し、その血管により血液が供給されている領域の脳実質が壊死に陥った状態をいう。主に、脳血栓、脳塞栓などがある。
 その他に、ラクナ梗塞*や無症候性脳梗塞と呼ばれるものもある。
*ラクナ梗塞:脳内の主幹動脈から直接分岐する小穿通枝動脈の閉塞により生じる小梗塞で、直径15 mm以下のもの。

表:脳梗塞の臨床概念による病型分類
 

臨床概念

アテローム血栓症

心塞栓症

ラクナ

病因

大血管の粥状硬化

左房・左室・静脈血栓

穿通枝の細動脈硬化

危険因子

高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙

心内塞栓源

高血圧

梗塞部位/大きさ

皮質/中-大

皮質/大

皮質下/小

血栓の組成

血小板主体

フィブリン主体

血小板?

抗血栓療法

抗血小板療法

抗凝固療法

抗血小板療法?



 

原因

脳血栓:アテローム性(粥状)動脈硬化(脳梗塞の約25%を占める)
脳塞栓:心房細動や弁膜症などの心疾患により心腔内で生じた凝血塊の脳血管への流入(脳梗塞の約15%を占める)

症状

脳血栓:半数近くに前駆症状〔一過性脳虚血(TIA)症状〕が認められる。
    特徴として、症状は段階的に進行する。安静時、特に睡眠中に発症することが
    多い。
    意識障害、身体片側の麻痺(片麻痺)などが起こる。
脳塞栓:前駆症状はほとんどない。日中活動期に発症することが多い。
    特徴として、症状は急速に進行し、数分以内に出揃う。

診断

CT写真で低吸収域(LDA、黒っぽく見える部分)を認める。

治療法

1.血小板凝集阻害薬(アスピリン、チクロピジン)
  脳血栓、心原性以外の脳塞栓に応用
2.血栓溶解薬(ウロキナーゼ)
  急性期に用いられるが、効果不確定
3.ワルファリン
  心原性脳塞栓に応用
4.濃グリセリン・高張糖液、マンニトール、低分子デキストラン
  急性期の脳浮腫の予防薬
5.トロンボキサン合成酵素阻害薬(オザグレルNa)
  急性脳血栓症に応用
6.リハビリテーション
※急性期において、不用意な降圧は神経症状の悪化を招くことになるため、行っても降圧前値の80%までとする。




急性期治療薬の禁忌・重大な副作用
 

禁忌

抗浮腫薬
(D-マンニトール)(濃グリセリン)

急性頭蓋内血腫のある患者(再出血)
先天性果糖・グリセリン代謝異常の患者(重篤な低血糖)

血栓溶解薬
(ウロキナーゼ)

脳塞栓の患者(再開通で出血性脳梗塞のおそれ)
原則禁忌:心房細動(特に僧帽弁狭窄症)、感染性心内膜炎、陳旧性心筋梗塞、人工弁使用中、瞬時完成型の神経症状患者

抗凝固薬
(ヘパリンNa)
(アルガトロバン)

出血中の患者(頭蓋内出血の疑い、血管障害による出血傾向など)
出血中の患者(頭蓋内出血、出血性脳梗塞など)

抗血小板薬
(オザグレルNa)

出血性脳梗塞、硬膜外出血、脳内出血、原発性脳室内出血脳塞栓症、脳塞栓を起こしやすい患者(心房細動、心筋梗塞、心臓弁膜疾患、感染性心内膜炎、瞬時完成型の神経症状患者、重篤な意識障害を伴う大梗塞)

重篤な副作用

抗浮腫薬
(D-マンニトール)(濃グリセリン)

大量で急性腎不全、代謝性アシドーシス、高K血症、低Na血症、電解質失調乳酸アシドーシス

血栓溶解薬
(ウロキナーゼ)

出血性脳梗塞、出血(脳出血、消化管出血、歯肉出血、血尿など)、ショック

抗凝固薬
(ヘパリンNa)(アルガトロバン)

ショック、過敏症、重篤な出血(消化管出血)、t-PA併用で脳出血、血小板減少症、動脈血栓症消化管出血、出血性脳梗塞、脳出血

抗血小板薬
(オザグレルNa)

ショック、血小板減少、出血(出血性梗塞、硬膜外血腫、脳内出血、消化管出血、皮下出血)、重篤な肝障害

血管壁強化薬
(カルバゾクロムスルホン酸Na)

ショック

血液凝固促進薬
(トラネキサム酸)

ショック、過敏症



急性期治療薬の相互作用 
 

薬物

相互作用を起こす薬剤

臨床症状など

血栓溶解薬、抗凝固薬、抗血小板薬

血液凝固阻止作用を有する薬剤、血小板凝集抑制作用を有する薬剤、血栓溶解剤など

出血傾向の増大〔血液凝固能(出血時間、プロトロンビン時間など)などの血液検査、臨床症状の観察〕

血栓溶解薬


抗凝固薬(ヘパリンナトリウム)

アプロチニン製剤


強心配糖体、テトラサイクリン系抗生物質、フェノチアジン系抗精神病薬、ニトログリセリン

ウロキナーゼの血栓溶解作用を減弱

本剤の作用減弱

血液凝固促進薬
(トラネキサム酸)

止血性臓器製剤、ヘモコアグラーゼ

大量併用により血栓形成傾向のおそれ


脳内出血
 脳血管の破裂により、血液が脳実質内に噴出し、それにより脳組織に障害の及んだ病態。脳出血の多くは300μmくらいの細い動脈で起こり、好発部位は大脳基底核(被殻)と視床である。
 

原因

・大部分は高血圧に基づく血管変化
・脳動脈に動脈硬化の一種としてフィブリノイド変性が起こり、そこが脆弱化し亀裂出血する。その他の原因として脳内動脈瘤、脳動静脈の奇形などによるものがある。

症状

・日中活動時に突然発症することが多い。
・出血部位によって、被殻出血(外側型)、視床出血(内側型)、脳葉型出血、橋出血、小脳出血などに分けられ、それぞれの型により症状が異なる。
・その他、急性期にはストレスによる胃酸分泌亢進で消化管出血を合併する頻度が高い。
・被殻出血(症例が全体の約40%を占め最も多い):病巣側への共同偏視(両眼が病巣側に向く)、片麻痺、顔面神経麻痺
・視床出血(全体の約30%):共同偏視(両眼が内下方に向く)。半身知覚麻痺
・脳葉型出血(左右大脳半球のどちらが出血するかにより症状が異なる):言語障害、失認症、単麻痺(四肢の1つの麻痺)
・橋出血:縮瞳、急激な昏睡、バビンスキー反射(足底の刺激で指がそる)
・小脳出血:めまい、歩行障害。非病巣側への共同偏視(両眼が非病巣側に向く)

診断

CT写真で高吸収域(HDA、白っぽく見える部分)を認める。

治療法

・基本は血腫を除去し、健常組織の障害を縮小することである。
1.急性期
 ・濃グリセリン・高張糖液、マンニトール(脳内圧低下、脳浮腫の改善)
 ・ニフェジピン、ジルチアゼム(高血圧の改善) ・ファモチジン(消化管出血の予防)
2.慢性期
 ・血圧コントロール ・脳代謝賦活薬、脳循環改善薬(後遺症の改善)
 ・リハビリテーション



くも膜下出血
 くも膜下腔(くも膜と軟膜の間)の血管の破裂により、脳脊髄液中に出血が及んだ病態。
 

原因

脳動脈瘤の破裂:大脳動脈輪(大脳動脈輪:Willis 動脈輪とも呼ばれる。くも膜下腔において内頸動脈と椎骨動脈により形成される六角形の動脈輪)の前部にみられる5〜10 mmのこぶ状動脈瘤の破裂。
くも膜下出血の原因の半数以上を占める。50-60歳代に多い。
脳動静脈奇形:10-20歳代の若年層に多い。
その他、Willis動脈輪閉塞症(もやもや病)や脳・脊髄腫瘍、外傷などによるものもある。

症状

突発性の激しい頭痛(悪心・嘔吐を伴う)、項部硬直やKernig 徴候などの髄膜刺激症状出血の程度により、種々の意識障害を伴う(大部分、神経脱落症状は伴わない)。
発症後7〜12日の間にくも膜下に生じた血塊により脳主幹動脈の血管れん縮を起こすことがあり、その場合、症状として脳虚血による知覚障害などが現れ、程度によっては死に至る。

診断

CT写真で、くも膜下腔及び脳槽に高吸収域(HDA)を認める。
脳血管造影による脳動脈瘤の確認(確認され可能であれば手術を行う)

治療法

外科的治療を必要とするケースが多い。(出血部のクリッピングなど)
内科的治療は脳内出血の治療に準じて行う。(急性期の血圧は緩徐に下げる)
※血管れん縮については患者の予後を大きく左右するが、治療法や予防法はいまだ確立していない。しかし、近年、Ca拮抗薬の経口投与の有効性が示されている。


脳腫瘍

 頭蓋内に発生する良性及び悪性の新生物を示す。
 

原因

原発性と転移性に大別される。(転移性が多い)
転移性は肺がんの転移が約半数を占める。他に、乳がん、消化器系がん、腎がんなどの転移例も多い。

症状

全般的な脳機能低下
 精神活動低下、人格変化、視力障害、痙れん発作
局所作用(腫瘍発生部位の刺激・欠落作用)
 運動麻痺、知覚障害、視力障害

治療法

1.良性腫瘍に対しての治療法
 摘出〔良性であっても頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐など)を起こすので外科的に治療する〕
2.悪性腫瘍に対しての治療法
 可能な限り摘出し、同時に放射線療法や化学療法を行う。
(悪性腫瘍は浸潤性に発育するため完全な摘出は困難で、再発が予想される)
 @ 化学療法(主に多剤併用)
  アルキル化剤(ニムスチン、ラニムスチン:血液−脳関門通過性のニトロソ尿素系)シスプラチン、ビンクリスチン
 A 免疫療法(腫瘍細胞の免疫反応を利用した補助療法)
  インターフェロンβ、インターロイキン2