パーキンソン病

パーキンソニズムを呈する疾患
 

1.特発性パーキンソニズム
  @ パーキンソン病
  A 若年性パーキンソニズム(40歳未満発症のパーキンソン病)
2.症候性パーキンソニズム
  @ 脳血管障害(大脳基底核の多発性小梗塞)
  A 薬剤(向精神薬、消化器用薬、降圧薬、脳循環代謝改善薬)
  B 脳炎(Economo脳炎、日本脳炎)
  C 中毒(CO、Mnなど)
  D 脳腫瘍
  E 頭部外傷
  F 神経変性疾患(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレイガー症候群、
    進行性核上性麻痺、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウィルソン病、
    びまん性レビー小体病など)



パーキンソン病の診断基準
 

1.自覚症状
  (ア)安静時のふるえ(四肢または頭に目立つ)(イ)動作が遅く拙劣(ウ)歩行が遅く拙劣
2.神経所見
  (ア)毎秒4〜6回の安静時振戦(イ)無動・寡動:仮面様顔貌、低く単調な話し声、動作の緩
   徐・拙劣、臥位からの立ち上がり動作など姿勢変換の拙劣(ウ)歯車現象を伴う筋固縮
  (エ)姿勢・歩行障害:前傾姿勢、歩行時に手のふりが欠如、突進現象、小刻み歩行、立ち直り
   反射障害
3.臨床検査所見
  (ア)一般検査に特異的な異常はない(イ)脳画像(CT、MRI)に明らかな異常はない
4.鑑別診断
  (ア)脳血管障害性のもの(イ)薬物性のもの(ウ)その他の脳変性疾患
<診断の判定>
次の@〜Dのすべてを満たすものを、パーキンソン病と診断する.
 @ 経過は進行性である。
 A 自覚症状で、上記のいずれか1つ以上がみられる。
 B 神経所見で、上記のいずれか1つ以上がみられる。
 C 抗パーキンソン病薬による治療で、自覚症状、神経所見に明らかな改善がみられる。
 D 鑑別診断で、上記のいずれでもない。

<参考事項>
 診断上次の事項が参考となる。
  @ パーキンソン病では神経症侯に左右差を認めることが多い。
  A 深部反射の著しい亢進、バビンスキー徴候陽性、初期からの高度の痴呆、急激な発症は
   パーキンソン病らしくない所見である。
  B 脳画像所見で、著明な脳室拡大で、著明な大脳萎縮、著明な脳幹萎縮、広範な白質病変
   などはパーキンソン病に否定的な所見である。





 パーキンソン病は振戦、筋固縮(こわばり)、無動、姿勢反射障害を主徴とする進行性の神経変性疾患である。病理学的に黒質緻密帯のドパミン作動性神経の細胞の変性と残存神経細胞内のlewy小体と呼ばれる好酸性封入体の出現を認める。進行すると、青斑核のノルエピネフリン、縫線核のセロトニンなどの減少を認める。
 

原因

1.パーキンソン病
  原因不明
2.パーキンソン症候群(原因が明らかなパーキンソン病)
  抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジン他)や消化器用薬(スルピリド、
   メトクロプラミド他)などの薬物による副作用
  脳外傷、脳動脈硬化症、脳腫瘍、CO中毒、マンカン中毒

症状

・50〜60歳代で最も発症しやすい。(患者の約60%)
・主症状として運動障害、自律神経障害、精神障害がみられる。
・経過は緩徐進行性、自然寛解はない。
 1.運動障害
  ・振戦(安静時に上肢の震え(4〜6回/秒)、手の震え(丸薬丸め運動)がみられる。)
    ※β遮断薬や、トリヘキシフェニジルで抑制される。
  ・筋固縮(持続的かつリズミカルな抵抗が四肢、頸部の運動に感じられるようになる。無理に動かそうとすると、“歯車様”とか“鉛管様”の動きになる。)
  ・無動(表情も乏しくなり、仮面様顔貌を呈する。働作がゆっくりとなり、声も小さくなる。さらに、すくみ足もみられる。)
   ※脳動脈硬化症を原因とするものは特に目立つ。
 上記の3症状が三大徴候といわれる。
  ・姿勢反射障害(より後期になって出現。加速歩行、立位でも座位でも前傾姿勢、方向転換時に転倒しやすい。これを含めて四大徴候ともいわれる。)

 2.自律神経障害
  ・便秘、排尿障害、起立性低血圧、皮脂腺分泌過多(脂漏顔面:oily face)

 3.精神症状
  ・心気的傾向、抑うつ傾向、痴呆など(但し、一般に人格は末期まで維持される)

〈薬剤性パーキンソン症候群の鑑別〉
  1.原因薬剤の服用歴がある。
  2.急速に出現し、症状進行が速い。
  3.振戦が少ない。
  4.抗パーキンソン病薬に対する反応が悪い。
  5.原因薬剤の中止により改善(2〜3ケ月で軽快)


 

治療法

薬物治療を主体(特にドパミンの補充療法)にして行う。
抗パーキンソン病薬の大別
 ・ドパミンの作用増強(レボドパ、ブロモクリプチン、ペルゴリド、タリペキソール、アマンタジン、セレギリン)
 ・アセチルコリンの作用減弱(トリヘキシフェニジル、ピペリデン、マザチコール、メチキセン、ピロヘプチン、プロフェナミン)
 ・ノルエピネフリンの補充(ドロキシドパ)

〈レボドパの長期投与による問題と対策〉
 ・Wearing-off 現象(up and down現象)
  数年間の服用で症状が安定していたにもかかわらず、効果持続時間が次第に短縮していく現象。特に夕方に症状が悪化する。
 原因は、ドパミン作動性ニューロン終末で生成、貯蔵されているドパミンの保持能力が低下することによると考えられている。
  対策:レボドパを少量追加するか、1日量を固定化し、投与回数を増やしてみる。
     ブロモクリプチンやドパ脱炭酸酵素阻害剤などの併用を行う。
 ・on-off 現象
  レボドパ服用後、2〜3年経過すると、レボドパの服用時間や服用量と無関係に突然症状が良くなったり、悪くなったりする現象。数分〜数時間持続する。
  対策:レボドパの漸減、他の抗パーキンソン病薬の併用、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン剤の投与が行われる。
 ・不随意運動(ジスキネジア)の出現
  レボドパ高用量の長期投与による発現する。歪顔の他、口周囲、舌あるいは躯幹に現れやすく、レボドパ・カルビドパ合剤の方がレボドパ単剤よりも発症しやすい。
  対策:レボドパの減量、ドパミン受容体遮断薬の投与を行う。
 ・すくみ足
  脳内ノルエピネフリン(NE)作動性神経が障害され、すくみ足、立ちくらみを生じることがある。
  対策:NEの前駆物質ドロキシドパ(L-DOPS)のようなNE量の増加を起こす薬物が用いられる
 ・精神症状
  幻覚、妄想、錯乱などがみられる。
  対策:原因薬物の減量・中止、錐体外路系の副作用の比較的少ないチオリダジンなどの投与 

〈薬物治療の注意点〉
・軽症で振戦の目立つ場合
  コリン作動性神経の亢進が生じているため、抗コリン薬が有効である。
・振戦より筋固縮が目立つ場合
  ブロモクリプチン、アマンタジンなどを用いる。この際、食欲不振、悪心があらわれる場合には、末梢性D2遮断薬を用いる。
 ※レボドパは血中で芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素によりドパミンに変換されると脳へ移行しにくくなるので、芳香族L-アミノ脱炭酸酵素阻害薬(カルビドパ、ベンセラジド)を併用する。




パーキンソニズムの鑑別診断
 

パーキンソン病

血管性パーキンソン病

薬剤性パーキンソン病

発症

緩徐

時に急激にストローク様

投与開始から週・月単位で発症

初発症状

振戦

歩行障害

歩行障害、無動

経過

進行性

階段的

原因となった薬剤の減量ないし中止で改善

振戦の性質

安静時

姿勢時

姿勢時、動作時

固縮の性質

歯車様

鉛管様

鉛管様、歯車様

症状の左右差

左右差認める

両側性

両側性

CT・MRI所見

異常所見なし

大脳基底核、大脳白質に多発性梗塞
PVL、PVH(+)

異常所見なし

L-DOPAの反応性

良好

無効

無効
(ときに抗コリン薬有効)



L-DOPA長期治療に伴う間題症状
 

1.薬効の動揺性
  ・wearing-off現象:L-DOPAの薬効時間の短縮による症状の日内変動
  ・on-off現象:L-DOPAの服薬時間に関係のない症状の急激な日内変動
2.不随意運動:口舌ジスキネジア、ヒョレア、ジストニア
3.精神症状:幻覚、妄想、せん妄
4.すくみ現象:すくみ足、すくみ言語



主なパーキンソン病治療薬の作用部位 
   DAergic.jpg
パーキンソン病治療薬
 

作用機序

一般名(商品名)

適応症







L-dopa

前駆体

L-dopa
(ドパストン)

パーキンソン病
パーキンソン症候群

前駆体

L-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬(AADC)

カルビドパ
(ネオドパストン)
ベンセラジド
(イーシー・ドパール)

ドパミン遊離促進

塩酸アマンタジン
(シンメトレル)

パーキンソン症候群
脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善

*








D2
(D1拮抗)

ブロモクリプチン
(パーロデル)

産褥性乳汁分泌抑制、乳汁漏出症、高プロラクチン血性排卵障害、高プロラクチン血性下垂体腺腫、末端肥大症、下垂体性巨人症、パーキンソン症侯群

D2 > D1

ペルゴリド
(ペルマックス)
カベルゴリン
(カバサール)

パーキンソン病

D2
(D1作用なし)

タリペキソール
(ドミン)

MAO-B阻害薬

ドパミン代謝阻害
ドパミン神経変性b防止(?)

セレギリン
(エフピー)

パーキンソン病に対するL-dopa含有製剤との併用療法(過去のL-dopa含有製剤療法において、+分な効果が得られていないもの:Yahr 重症度ステージ I 〜 IV)

抗コ
リン

ムスカリン受容体遮断

トリヘキシフェニジル(アーテン)
ピペリデン
(アキネトン)

突発性パーキンソニズム、その他のパーキンソニズム(脳炎後、動脈硬化性)、抗精神病薬投与によるパーキンソニズム・ジスキネジア・アキネジア

ノル
エピ
ネフ
リン
前駆
物質

ノルエピネフリン補充

ドロキシドパ
(ドプス)

パーキンソン病(Yahr重症度ステージ III)におけるすくみ足、立ちくらみの改善、以下の疾患における起立性低血圧、失神、立ちくらみの改善:シャイドレーガー症候群、家族性アミロイドポリニューロパチー


*ドパミン受容体刺激薬においてブロモクリプチン、ペルゴリドは麦角アルカロイドであり、カベルゴリン、タリペキソールは非麦角アルカロイドである。