うつ病・躁病

 うつ病は、人口の3%くらいにみられる。脳の神経伝達物質の障害。叱咤・激励は禁物。
[分類]
 双極型:躁病相とうつ病相をともに示す。 
 単極型:躁病相かうつ病相のみが現れる。単極型の多くはうつ病であり、躁病はまれである。

 

原因

・不明(うつ病ではレセルピンなどの薬物副作用が原因となることもある)
・躁病、うつ病とも、治療薬の薬理作用から脳内モノアミン活性が関与しているという説がある。

症状

1.躁状態、躁病:気分の高揚に基づく身体的・精神的活動の亢進を呈し、重篤な例では制御不能な興奮を示すケースもある。
  多弁、多動、誇大感
  思考にまとまりを欠き、一周囲の忠告に耳をかさず怒りっぽい、病識に乏しい
2.うつ状態、うつ病
  抑うつ気分、興味・意欲低下、不安・焦燥など精神的症状と不眠、食欲低下などの身体症状
  早朝撹醒、浅い眠り、自殺願望(回復期に多い)、気分には日内変動があり、朝から午前中は具合が悪いが、夕方から夜になるといくぶん気分が上向きになる。

治療法

1.躁状態、躁病
 炭酸リチウムによる気分の高揚の鎮静化を計る。多動・多弁の目立つケースでは、症状に応じて抗精神病薬や抗てんかん薬(カルバマゼピン)を単独又は併用で用いる。炭酸リチウムの効果発現までには数日を要する。
 炭酸リチウムの消失経路は腎排泄で、TDMを行いながら投与する。血中濃度が1.5 mEq/L以上では悪心・嘔吐などの副作用が現われ、より過量ではけいれん、意識障害などが生じる。
2.うつ状態
 精神療法:カウンセリングにより医師との信頼関係を確立することが第一である。その他、患者の周囲の人々もうつ病を病気として受け入れ支持的に接する。励ましは本人の負担になるので禁忌。又、自殺防止のため、本人に必ず回復すると保障を与え、自殺だけはしないよう約東させる。
 薬物療法:アミトリプチリンやイミプラミンなどの三環系抗うつ薬
      (効果発現には2〜4週間を要する。)
      ミアンセリンやマプロチリンなどの四環系抗うつ薬
      選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):フルボキサミン、パロキセチン
※予後は躁病、うつ病共に薬物療法により、大部分は数ヶ月のうちに回復するが、一部には薬物療法に反応しにくい例もある。



うつ病の症状評価項目
 

ICD-10 

DSM-IV 

うつ病エピソード

大うつ病エピソード

大項目

@ 抑うつ気分
A 興味と喜びの喪失
B 易疲労感の増大と活動性の減少

@ 抑うつ気分
A 興味または喜びの喪失

小項目

@ 集中力と注意力の減退
A 自己評価と自信のなさ
B 罪責感と無価値感
C 将来に対する希望のない悲観的な見方
D 自傷あるいは自殺の観念や行為
E 睡眠障害
F 食欲不振

@ 体重や食欲の減少が増加
A 不眠または睡眠障害
B 焦燥か制止
C 易疲労感か気力の減退
D 無価値観、罪悪感
E 思考力や集中力の減退
F 自殺念慮

重症度

軽症:大項目の2つ以上、小項目の2つ以上
中等症:大項目の2つ以上、小項目の3つ以上
重症:大項目の3つ、小項目の4つ以上

大うつ病:大項目1つ以上を含む5つ以上


ICD-10によるうつ病の分類
 

1.軽症うつ病エピソード:大項目2つ以上、小項目2つ以上
  a.身体症状をともなうもの、 b.身体症状をともなわないもの
2.中等症うつ病エピソード:大項目2つ以上、小項目3つ以上
  a.身体症状をともなうもの、 b.身体症状をともなわないもの
3.精神病症状をともなわない重症うつ病エピソード:大項目3つ以上、小項目4つ以上
4.精神病症状をともなう重症うつ病エピソード:3に幻覚、妄想、あるいはうつ病性昏迷が存在
5.その他(非定型うつ病)
6.持続性のもの:気分変調症
   軽症、中等症の診断基準を満たさない慢性的抑うつ気分
   ときにこれらの基準を満たすこともある(二重うつ病)
   含:神経症性うつ病、抑うつ神経、抑うつ人格障害、持続性不安うつ病
1〜5は反復することがある。また、両極性感情障害(躁うつ病)のうつ病エピソードも上記に分類される。



三環系、四環系抗うつ薬の禁忌、慎重投与
 

禁忌*1・慎重投与 

症状など 

緑内障のある患者*2
尿閉(前立腺疾患など)のある患者*2
排尿困難または眼内圧元進などのある患者
高度な慢性の便秘のある患者

本剤の抗コリン作用により症状が悪化することがある

心筋梗塞の回復初期の患者*2

症状を悪化させるおそれがある

心不全・心筋梗塞・狭心症・不整脈(発作性頻拍・刺激伝導障害など)などの心疾患のある患者または甲状腺機能元進症の患者

循環器系に影響を及ぼすことがある

てんかんなどの痙撃性疾患またはこれらの既往歴のある患者*3

痙肇を起こすことがある

躁うつ病患者

躁転、自殺企図があらわれることがある

脳の器質障害または精神分裂病の素因のある患者

精神症状が増悪されることがある

副腎髄質腫瘍(褐色細胞腫、神経芽細胞腫など)のある患者*4

高血圧発作を引き起こすことがある

低血圧のある患者*3

高度の血圧低下が起こることがある


  *1、*2-4印のない項目はすべての三環系、四環系抗うつ薬において慎重投与
  *2三環系抗うつ薬および塩酸マプロチニンにおいて禁忌
  *3塩酸マプロチニンにおいて禁忌
  *4三環系抗うつ薬および塩酸マプロチニンにおいて慎重投与

三環系抗うつ薬の主な重大な副作用とその初期症状 (表p.130)
 

重大な副作用

初期症状など 

悪性症候群

初期症状:無動絨黙、強度の筋強剛、嚥i下困難、頻脈、血圧の変動、発汗など
上記症状に引き続き発熱がみられる場合は、投与を中止し、体冷却、水分補給などの全身管理とともに適切な処置を行う.本症発症時には、白血球の増加や血清CPKの上昇がみられることが多く、またミオグロビン尿を伴う腎機能の低下がみられることがある。なお、高熱が持続し、意識障害、呼吸困難、循環虚脱、脱水症状、急性腎不全へと移行し、死亡した例が報告されている。

てんかん発作

初期症状:発熱、咽頭炎、インフルエンザ様症状など

麻痺性イレウス

初期症状:食欲不振、悪心・嘔吐、著しい便秘、腹部の膨満あるいは弛緩および腸内容物のうっ滞など。
なお、この悪心・嘔吐は、本剤の制吐作用により不顕性化することもあるので注意する。

抗利尿ホルモン不適合分泌症侯群(SIADH)

初期症状:痙攣、意識障害など
低ナトリウム血症、低浸透圧血症、尿中ナトリウム排泄量の増加、高張尿を伴う。このような場合には投与を中止し、水分摂取の制限など適切な処置を行う。


各種抗うつ薬の薬理学的特徴
  anxiolytic.jpg

相互作用/使用禁忌
 ・モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤:脳内モノアミン濃度が高まった結果、発汗、不穏、全身けいれん、
   異常高温、昏睡などの症状
 ・テルフェナジン、アステミゾール、チオリダジンとイミプラミン、クロミプラミン:QT延長、心室性不整脈

セロトニン神経終末におけるSSRIの作用機序(模式図)
     SSRI-mechanism.jpg

SSRI、SNRI、塩酸トラゾドンの用法用量および体内動態の特徴
 

分類

一般名(商品名) 

適用、その他 

SSRI

マレイン酸フルボキサミン(デプロメール)

SSRI

塩酸パロキセチン水和物(パキシル)

うつ病、うつ状態
パニック障害

SNRI

塩酸ミルナシプラン(トレドミン)

塩酸トラゾドン(デジレル)

一部腸肝循環あり尿中排泄率:未変化体の尿中排泄はきわめて少ない(ヒト)


*尿中、糞中排泄率は、特に記載がない場合、代謝物も含む割合を示す.


マレイン酸フルボキサミンの相互作用(併用注意)
 

薬物名など 

臨床症状など 

機序・危険因子 

炭酸リチウム

両薬物の作用増強
併用によりセロトニン症候群の報告がある

機序不明

セロトニン作用薬
(コハク酸スマトリプタンなど)

セロトニン作用の増強。セロトニン症候群が発現するおそれがある

共に直接的あるいは間接的なセロトニン作用を有する

抗てんかん剤(フェニトイン、カルバマゼピン)、三環系抗うつ剤(塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリン、塩酸クロミプラミン)、ベンゾジアゼピン系薬剤(アルプラゾラム、ブロマゼパム、ジアゼパム)

これらの薬物の血中濃度上昇

本剤は、肝臓で酸化的に代謝されるこれらの薬剤の代謝を阻害し、血中濃度を上昇、血中半減期を延長、またはAUCを増加させることがある

β-遮断剤
(塩酸プロプラノロール)

徐脈、低血圧など(プロプラノロールの血中濃度上昇)

キサンチン系気管支拡張剤
(テオフィリンなど)

めまい、傾眠、不整脈など(テオフィリンのクリアランスを1/3に低下させることがある)

シクロスポリン

シクロスポリンの血中濃度上昇

クマリン系抗血液凝固剤
(ワルフナリンカリウム)

ワルファリンの血中濃度上昇

アルコール(飲酒)

類薬で抗うつ薬の作用増強

類薬での報告がある。



フルボキサミンは、CYP1A2 の強力な阻害剤なので、この酵素で代謝される薬物との相互作用には、十分注意

ベンゾジアゼピン系および類似睡眠薬の活性代謝物を含めた消失半減期 (表 p.157)
 

分類

一般名

商品名

未変化体の半減期(時間)

活性代謝物の半減期(時間)

超短時間型

トリアゾラム
ミダゾラム
ゾピクロン
ゾルピデム

ハルシオン
ドルミカム
アモバン
マイスリー

2〜3

3〜4

4


短時間型

エチゾラム
ブロチゾラム
リルマザホン
ロルメタゼパム

デパス
レンドルミン
リスミー
エバミール、ロラメット




10

18

10

長時間型

フルニトラゼパム
ニメタゼパム
エスタゾラム
ニトラゼパム

ロヒプノール、サイレース
エリミン
ユーロジン
ベンザリン、ネルボン

15
21
24
21〜25

31


超長時間型

クアゼパム
フルラゼパム
ハロキサゾラム

ドラール
ベノジール、インスミン
ソメリン

25〜41
5〜9

40〜114
47〜100
42〜123


心身症・神経症

心身症:身体疾患のなかで、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害を伴う身体症状は除外する。
心身症は、疾患名ではなく病態名である。例:消化性潰瘍(心身症)
神経症:心理的原因(心因)によって起こる心身の機能的障害。特有な症状群ないし症状像を呈するもの。
器質性疾患の除外、心因性であることの確認、精神病、心身症、人格障害の除外

 

原因

心身症:心理的ストレス
神経症:心因(症状の成立、固定、消長が心理的に理解できる)

症状

心身症:各疾患に応じた症状とそれに付随する全身倦怠感、不眠、食欲不振、耳鳴り、肩凝り等
神経症:不安神経症、恐怖症、強迫神経症、ヒステリー、うつ型神経症、離人神経症、心気神経症、神経衰弱

治療法

心身症:抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬
神経症:抗不安薬。強迫神経症には、フルボキサミン(SSRI)、ブロマゼパム



各種抗不安薬の薬理学的特徴 
1.ベンゾジアゼピン系抗不安薬
 ・ベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用機序発現 (図 p.176)
 ・ベンゾジアゼピン系抗不安薬の重大な副作用 (表 p.178)
 ・ベンゾジアゼピン系抗不安薬の相互作用 (表 p.179)

2.非ベンゾジアゼピン系抗不安薬 
 ・セロトニン1A受容体作動薬:抗不安作用、神経症的うつに有効(うつ病には無効)
   タンドスピロン
   大脳辺縁系などのセロトニン神経機能の抑制
   鎮静、筋弛緩、依存性、ふらつき、眠気、記憶障害が少ない。
   作用発現には、2〜4週間必要

3.選択的セロトニン再取込み阻害薬、SSRI
 ・フルボキサミン:うつ病、うつ状態、強迫性障害
 ・パロキセチン:うつ病。うつ症状、パニック障害
   抗コリン作用、心毒性、鎮静作用、体重増加などの副作用が少ない。
  副作用:眠気、めまい、消化器症状(悪心、嘔気、便秘)、譫妄、錯乱、幻覚・妄想、
      セロトニン症候群、悪性症候群、など
  SSRI の相互作用 (表 p.185)