2.交感神経系に作用する薬物


1.アドレナリン作動性神経のシナプス伝達機構
 一般的に交感神経系の節前線維はコリン作動性、節後線維はアドレナリン作動性

   図 アドレナリン作動性神経のシナプス伝達機構

@ 神経衝撃により、Ca2+ が神経終末に流入する。
A シナプス小胞から NE が遊離される。
B 遊離したNEがシナプス間隙に拡散し、NE受容体と結合する。
C シナプス後膜の脱分極により、効果器を興奮させ、生理作用を現す。
D 遊離したNEは、大部分はそのまま神経終末のアミンポンプを介して再取り込みされる。
E シプナス間隙のNEが増すと、神経終末のα2受容体と結合し、NEの遊離を抑制する。
F 神経終末から放出されたノルエピネフリンはα1、α2、β1、β2などのサブタイプに分類される受容体に作用して種々の反応を発現する。


2.カテコールアミンの生合成・代謝
 @ カテコールアミン -- 3,4-ジヒドロキシ-β-フェニルエチルアミンの基本構造を持つもの
  生体内に存在するカテコールアミン:ドパミン(DA)、ノルエピネフリン(NE)、エピネフリン(Epi)などがある。
   NEはアドレナリン作動性神経伝達物質。Epiは副腎髄質に存在。
   DAはNEの前駆物質であるが、中枢神経系において神経伝達物質としても重要な働き。

   表 カテコールアミンの種類
     

カテコールアミン

 構  造

ドパミン

ノルエピネフリン

エピネフリン

イソプレナリン(別名イソプロテレノール)


 

ドパミン

ノルエピネフリン

エピネフリン

イソプレナリン

アドレナリン受容体親和性

β1>α1>α2

α1>α2>β1>β2

α1212

β12>>α2

主な薬理作用

腎血管拡張
心収縮力増大

細動脈収縮
心収縮力増大
脂肪分解促進

細動脈収縮
骨格筋血管拡張
気管支拡張
血糖上昇
心収縮力増大

心収縮力増大
骨格筋血管拡張
気管支拡張

主な臨床応用

急性循環不全

急性低血圧
ショック

アナフィラキシーショック
気管支ぜん息
心停止
開放隅角緑内障

気管支ぜん息
急性心不全
アダムス・ストークス症候群 #)

適用法

点滴静注

点滴静注
皮下注

静注、皮下注、筋注
吸入
点眼、点鼻

吸入
点滴静注
筋注、皮下注



 #)アダムス・ストークス症候群:心拍調律の急激で著しい変化の結果、脳虚血のために、めまい、意識消失、けいれんをおこす場合

A カテコールアミンの生合成
 ・ノルエピネフリン(NE)は、生体内ではアドレナリン作動性神経に取り込まれたチロシンより合成され、ドパ、ドパミンと変化し、アミン顆粒に取り込まれ、NEとなって貯蔵(一部ATPと塩を形成)され、必要に応じて遊離される。
 ・副腎髄質では、さらにメチル化されてエピネフリン(Epi)となる。
 ・生合成系の律速段階の酵素はチロシンヒドロキシラーゼであり、NEによりその活性が抑えられている。
 ・NEの含量が増加すると抑制が強まり生合成が抑えられ含量は低下し、含量が低下すると抑制がはずれ生合成が促進される。

   図 ノルエピネフリン、エピネフリンの生合成

〔ノルエピネフリンの生合成酵素阻害薬〕
   

酵素

阻害薬

Tyrosine hydroxylase

α-メチルチロシン(α-MT)

DOPA decarboxylase

α-メチルドパ、カルビドパ

Dopamine-β-hydroxylase

ジスルフィラム



B カテコールアミンの代謝
 ・神経終末から遊離されたNEは、大部分がそのまま神経終末のアミンポンプを介して再取り込みされる。この過程を阻害する薬物にコカイン、三環系抗うつ薬がある。
 ・再取り込みされたNEは、モノアミンオキシダーゼ(MAO)により酸化的脱アミノ化される。更に一部は神経外に放出され、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)により代謝される。
  またシナプス間隙のNEは、シナプス間隙でCOMTにより代謝されるほか、COMT活性の高い肝や腎で代謝される。COMTで代謝されたNEも、MAOの作用を受ける。

   図 カテコールアミンの代謝
 
〔ノルエピネフリン、エピネフリンの分解酵素〕
 モノアミンオキシダーゼ(モノアミン酸化酵素、MAO)
 ・MAOは、神経終末、副腎髄質クロマフィン細胞(クロム親和性細胞)やその他の細胞のミトコンドリアに多く存在
    MAOA : ノルエピネフリン、セロトニン
    MAOB : ドパミン、チラミン
 ・カテコールアミンを酸化的脱アミノ化することにより、不活性化される。
 ・セロトニン、チラミンも、MAOにより分解される。
 カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)
 ・COMTは、シナプス間隙、血液、肝、腎の可溶性分画に存在する。
 ・カテコール核の水酸基をメチル化する。

〔ノルエピネフリンの分解酵素阻害薬〕
  

酵素

阻害薬

COMT

フロプロピオン、ピロガロール

MAO

サフラジン、セレギリン、パージリン、トラニルシプロミン
デプレニル(MAOB 阻害)



C アミンポンプ(アミントランスポーター)
 ・交感神経終末には、ノルエピネフリン(NE)の再取り込み機構があり、それに関与しているのがアミンポンプである。このアミンポンプを阻害すると再取り込みが抑制され、シナプス間隙のNEが増加し、交感神経興奮と類似の作用を示す。
 ・アミンポンプを阻害する薬物:コカイン、
                三環系抗うつ薬(イミプラミン、アミトリプチリン)

   図 アミンポンプの再取リ込み機構と作用する薬物


3.交感神経興奮薬(アドレナリン作動薬)
 交感神経節後線維の効果器官に作用する薬物
  直接型:α、β受容体に直接働く薬物
  間接型:交感神経終末に作用しアミン顆粒(シナプス小胞)のNEの遊離を促進する薬物
  混合型:直接型と間接型の作用を持つ薬物
 α作用 NE < Epi >> ISO
 β1作用 NE ≦ Epi < ISO
 β2作用 NE << Epi < ISO

 <アドレナリン作動薬の構造―活性相関>
 基本構造:フェニルエチルアミン
 ・3,4位にOH基あり:α、β受容体刺激作用強力
 ・3,4位にOH基なし:消化管吸収増大、交感神経興奮量以下で中枢興奮作用
            COMT による代謝を受けない
 ・1級アミン(-NH2):α作用強力
 ・2級アミン(-NH-):β作用増大(置換基の大きさに比例)
 ・α位のメチル化:MAO による影響減少

@ 直接型交感神経興奮薬:エピネフリン(アドレナリン)--- α1212
 特徴
  ・副腎髄質クロム親和性細胞より分泌される副腎髄質ホルモン
  ・ノルエピネフリンのN-メチル化により合成されるカテコールアミンで、アセチルコリンのニコチン様作用により分泌し、COMT、MAOにより代謝される。
  ・血液―脳関門は通過しないので中枢作用は示さない。
  ・消化管で不活化されるため経口投与は無効。
 薬理作用
  ・α受容体、β受容体刺激作用。
  ・心機能促進作用(β1作用)
    心収縮力増大、心拍出量増大、心拍数増加、刺激伝導速度増大
  ・血圧上昇作用
    α1作用による血管収縮作用とα2作用による血管拡張作用を持つが、一般にはα1作用の方が強く現れるため血圧は上昇する。(但し、皮膚、粘膜血管はα1作用が優先するが、骨格筋、冠血管ではβ2作用が優先し血管は拡張する)

   図 〔エピネフリンの血圧反転〕 p.69 図3.14
    α遮断薬(フェントラミンなど)で処理した後、エピネフリンを静注すると、血管の  β2作用のみが現れ、血圧が下降する。

  ・気管支拡張作用(β2作用):気管支平滑筋弛緩作用を示す。
  ・肥満細胞からヒスタミン、SRS-A などのアレルギー性メディエーターの遊離抑制
  ・気管支粘膜の充血と浮腫を除去
  ・散瞳作用(α作用):瞳孔散大筋収縮作用を示す。(瞳孔括約筋には影響しない)
  ・胃腸平滑筋弛緩作用、胃腸運動抑制作用(α、β2作用)
  ・胃液、腸液分泌抑制作用(β2作用)
  ・血糖上昇作用(α2、β2作用):グリコーゲン分解促進作用(β2)とインスリン分泌抑制作用(α2)による。
  ・血中遊離脂肪酸濃度上昇作用(β作用)
  ・排尿困難(β作用):排尿筋弛緩作用による。
 応用
  ・各種疾患に伴うショック、急性低血圧(アナフィラキシーショック、急性心不全など)
  ・気管支ぜん息
  ・局所麻酔薬の作用時間延長
  ・点眼で開放隅角緑内障(エピネフリンのプロドラッグジピベフリンは眼内移行性が良い)
 相互作用
  ・MAO阻害薬を併用すると代謝が阻害されるため作用が増強する。
  ・アミンポンプ阻害薬と併用すると再取り込みが阻害され、シナプス間隙での濃度が上昇し作用が増強する。 ex. コカイン


ノルエピネフリン(ノルアドレナリン) α1>α2>β1>β2
 特徴
  ・アドレナリン作動性神経伝達物質で、副腎髄質にも存在するカテコールアミン。
  ・血液―脳関門は通過しないため、中枢作用なし。
  ・消化管で不活化されるため、経口投与は無効。
 薬理作用
  ・α受容体、β受容体刺激作用を持つが、β2受容体刺激作用は弱いため、エピネフリンのような血圧反転は起こさない。(図 3.14)
  ・血圧上昇作用(α、β1作用):血管平滑筋収縮作用と、β1受容体を介する心機能亢進
  ・心拍数減少:血圧上昇に伴う自律神経系の徐脈反射( > β1による心拍数増大)
 応用
  ・ショック時等の血圧低下に昇圧薬として用いる。
 相互作用
  ・MAO阻害薬の併用により代謝が阻害されるため作用が増強する。
  ・アミンポンプ阻害薬と併用すると、再取り込みが抑制されシナプス間隙での濃度が上昇するため作用が増強する。


イソプレナリン(イソプロテレノール)
 特徴
  ・合成カテコールアミン
 薬理作用
  ・β受容体刺激作用(非特異的)。
  ・心機能促進作用(β1作用):心収縮力増大、心拍出量増大、心拍数増加。
  ・気管支拡張作用(β2作用):気管支平滑筋弛緩作用による。
  ・血管拡張作用(β2作用):大量では血圧が下降する。
  ・消化管緊張低下、ケミカルメディエーターの放出阻害(β2作用)
 応用
  ・気管支ぜん息(現在では選択的β2作動薬)、急性心不全、内耳障害に基づくめまい、
   高度の徐脈
 副作用
  ・頻脈(心機亢進)、胃部不快感、嘔気、嘔吐、不整脈、低血圧


   図 〔3種のカテコールアミンの血圧下降とα、β受容体遮断薬の効果〕

 

薬物名・構造

要点

フェニレフリン

・α1刺激作用強力。
・作用はエピネフリンより弱いが(約1/5)、COMTによる代謝も神経終末への再取り込みも受けないため、持続時間は長い。
・経口投与可能、中枢作用はほとんどない。
 〔応用〕結膜、鼻粘膜の充血除去、低血圧症、散瞳薬、局所麻酔薬の作用増強

ナファゾリン

・α1刺激作用を持つ。
・血管収縮作用はエピネフリンより強力かつ持続的である。
〔応用〕結膜・鼻粘膜の充血除去、局所麻酔薬の作用増強
〔副作用〕一過性の刺激痛

エチレフリン

・α、β刺激作用を持つ。
・内服でも有効。
〔応用〕低血圧症、ショック

メトキサミン

・α1刺激作用を持つ。
・β作用、中枢作用はない。(高用量では、β遮断効果)
・血圧上昇やその結果起こる反射性徐脈などの作用を持つ。
〔応用〕低血圧症、発作性上室頻脈

ドブタミン

・β1刺激作用。(-)体はα1刺激作用、(+)体はα1遮断作用
・心収縮力増大作用を示す。β刺激作用((+)体 >> (-)体)
・平均血圧は上昇させるが、血管収縮作用はない。
〔応用〕急性循環不全における心収縮力増強

デノパミン

・β1受容体を選択的に刺激する。
・心臓刺激性が高い。
〔応用〕強心薬


 

サルブタモール

・β2受容体を比較的選択的に刺激する。
・気管支を拡張する。
〔応用〕気管支ぜん息
・心悸亢進(β1作用)の副作用が少ない。

トリメトキノール

・気管支β2受容体を刺激→気管支ぜん息に適用。
・循環器系に対する作用は緩徐。
〔応用〕気管支ぜん息

テルブタリン

・β2受容体を比較的選択的に刺激する。
〔応用〕気管支ぜん息
〔副作用〕振戦

プロカテロール

・β2受容体刺激作用を持つ。
・他のβ刺激薬に比べ、β2受容体に対する選択性が高く、強力かつ持続的である。
〔応用〕気管支ぜん息

オルシプレナリン
(メタプロテレノール)

・β受容体刺激作用を持つ。
・比較的、β2受容体に選択性を持つが、他のβ2刺激薬に比べて選択性は劣る。
〔応用〕気管支ぜん息

リトドリン

・子宮筋のβ2受容体を選択的に刺激する。
・子宮弛緩作用(β2作用)
〔応用〕切迫流産・早産の防止



 A 間接型交感神経興奮薬
 

薬物名・構造

要点

チラミン

・チーズ、ワインなどに含有。(薬物ではない)
・アミンポンプ(uptake 1)で交感神経終末に取り込まれ、アミン頼粒でNEと置きかわり、NEを遊離させてNE類似作用を示す。
・タキフィラキシーが現れる。
・MAOにより分解される。(COMTの作用は受けない)
(MAO阻害薬(ex. ニアラミド)使用時、不活性化されなくなるので、チラミンの作用が強く現れて危険である)

アンフェタミン
メタンフェタミン

・覚せい剤 (d体 > l 体)
・交感神経終末からのNE放出を促進する。
・中枢興奮作用、MAO阻害作用も有する。
・タキフィラキシーを生じる。
〔応用〕ナルコレプシー、傾眠、インスリンショック
〔副作用〕耐性、精神的依存、嗜癖、不眠、精神分裂症様症状、食欲減退


 B 混合型交感神経興奮薬
 

薬物名・構造

要点

エフェドリン
メチルエフェドリン

・麻黄に含まれるアルカロイドである。( l 体)
・間接作用:NEの遊離を促進する。(昇圧などのα作用にタキフィラキシーが現れる。)
・直接作用:β作用による心拍出量増大(β1作用)、気管支拡張(β2作用)(タキフィラキシーは現れない。)
・血液―脳関門を通過し、中枢を興奮させる。
・経口投与可能で作用時間は長い。
・MAOにより分解を受けにくい。(COMTの作用は受けない)
〔応用〕気管支ぜん息、低血圧症、気管支炎、肺結核などの咳嗽に対する鎮咳薬
〔副作用〕不眠、心悸亢進

ドパミン

・NEの生合成の前駆体であるカテコールアミン。
・中枢における重要な伝達物質である。
・弱いβ1作用:心収縮力、心拍出量の増大(直接作用)
・神経終末からNEを放出(間接作用)
〔応用〕外傷、心筋梗塞後のショックの改善、急性循環不全
※プロドラッグとしてドカルパミンがドパミン投与の不適な場合に適用。




〔タキフィラキシーについて〕
 タキフィラキシーとは、短時間の反復作用で感度が下がり、ついには無効となる状態をいう。
 タキフィラキシーを起こす薬物:チラミン、エフェドリン、メタンフェタミン、アンフェタミン

 表 〈作用部位による分類〉
 

直接型

受容体

エピネフリン

α、β

ノルエピネフリン

α>β

イソプレナリン

β

フェニレフリン

α1

ナファゾリン

α(1)

ドブタミン

β1

デノパミン

β1

サルブタモール

β2

プロカテロール

β2

リトドリン

β2


間接型

混合型

チラミン

エフェドリン

アンフェタミン

メチルエフェドリン

メタンフェタミン

ドパミン



 C その他
 

薬物名

要点

アメジニウム
(非カテコールアミン系)

・交感神経終末へのNE再取り込み阻害作用、MAO阻害作用をもつ。
〔応用〕低血圧(透析時にも応用可)