コリンエステラーゼ阻害薬


1.コリンエステラーゼ阻害薬(間接型副交感神経興奮薬)
 間接型副交感神経興奮薬は、コリンエステラーゼ阻害によりシナプス間隙で ACh を蓄積させ、副交感神経支配器官のムスカリン受容体を間接的に興奮させる。
 同様に自律神経節、神経筋接合部におけるコリンエステラーゼも阻害し、興奮作用を示す。

〈ムスカリン様作用〉
  副交感神経支配効果器官に対する作用
  ・血圧下降、血管拡張
  ・徐脈(M2)、気管支収縮
  ・腺分泌促進、消化管収縮、消化管運動促進、縮瞳(瞳孔括約筋の収縮)、尿量増加
〈ニコチン様作用〉
  ・最初、骨格筋の攣縮や神経節伝達の増強、後に、脱分極性阻害薬として働き、神経伝達
   を抑制し、筋力低下を起こす。
〈中枢作用〉
  ・脳内ムスカリン様受容体に作用し、不安、振戦、運動失調、言語障害、錯乱、幻覚が現れ、昏睡、痙攣、死に至ることがある。
〈臨床応用〉
  ・緑内障、麻痺性イレウス、膀胱アトニー、重症筋無力症の診断と治療

(1) 可逆的に阻害する薬物
 可逆的ChE阻害薬は、ChEの活性中心である陰性部、エステル部と結合した後、エステル部位をカルバモイル化(カルバミル化アシル化)し、ChEを阻害する。この結合は容易に離れ、ChEを一時的に阻害する。

   図3.31 ネオスチグミンのChE阻害機構(p.101)
 1)天然可逆的コリンエステラーゼ阻害薬
   フィゾスチグミン(別名:エゼリン)(カラバル豆アルカロイド:3級アミン)
 

薬理作用

・ChEのエステル水解部(セリン残基のOH)をカルバモイル化(アシル化)し、ChE活性を低下させる。そのためAChが蓄積し、間接的に副交感神経を興奮させる。
・筋終板でのAChの分解を遅延させ骨格筋収縮作用を現すが、骨格筋のニコチン受容体を直接刺激する作用は持たない。
・血液−脳関門を通過し中枢興奮作用を示す。


  ※点眼で緑内障に有効(しかし、臨床応用はしない)

 2)合成可逆的コリンエステラーゼ阻害薬
   ネオスチグミン
 

薬理作用

・消化管、神経筋接合部でのChE阻害作用に強い選択性を示す。
・骨格筋のニコチン受容体に対する直接刺激作用を示す。
・4級アンモニウム化合物のため血液−脳関門は通過し難く中枢性副作用がない。

応用

重症筋無力症、ツボクラリンによる呼吸抑制手術
分娩後の腸管麻痺、排尿困難(膀胱麻痺)、弛緩性便秘症



 ジスチグミン
 

薬理作用

・本質的にその作用はネオスチグミンと同様であるが、作用は強力でかつ持続的。
・4級アンモニウム化合物のため血液−脳関門は通過し難く中枢性副作用がない。

応用

重症筋無力症、緑内障



 ピリドスチグミン、アンベノニウム
 

薬理作用

・ネオスチグミンとその作用は類似しているが、神経筋接合部に対する作用は持続的でまた消化管に対する作用は少ない。

応用

重症筋無力症



 エドロホニウム
 

薬理作用

・ChE阻害作用と骨格筋直接刺激作用を持つが速効性で持続性は短い(約5分程度)

応用

重症筋無力症(診断)、ツボクラリンの解毒




〈天然品と合成品の比較〉
  

天然品

合成品

3級アミン

4級アンモニウム塩

作用機序

ChEのカルバモイル化

×

骨格筋直接刺激

中枢作用

×



 (2)非可逆的に阻害する薬物
 ・非可逆的ChE阻害薬はコリンエステラーゼのエステル部をリン酸化し失活させる。この作用は非常に持続的である。
 ・農薬として使用された有機リン化合物は、脂溶性が高く中枢に移行しやすい。

   図3.31 有機リン化合物のChE阻害機構(p.101)

 

薬物名・構造

要点

イソフルロフェート(DFP)

・ChEのエステル部位をリン酸化し、非可逆的に ChE 阻害を起こす。
・強力で持続的である。
・眼内圧を低下させる。

エコチオパート

・水溶性で安定。
・強力で持続的な縮瞳、眼内圧低下を起こす。
〔応用〕緑内障、縮瞳薬
〔副作用〕白内障、虹彩炎

パラチオン

・生体内で酸化され、活性型のパラオクソンとなってChEのエステル部位をリン酸化し、非可逆的に阻害する。中毒症状はフィゾスチグミンの効果に類似する。

サリン、タブン、ソマン



中毒
 ・コリン性クリーゼ:コリンエステラーゼ阻害薬の過剰投与
   ムスカリン様作用(縮瞳、発汗、唾液分泌、流涙、腸管運動亢進)
   ニコチン様作用(骨格筋の攣縮および麻痺)
 ・有機リン中毒

解毒薬:プラリドキシム(PAM)、DAM、アトロピン
  PAM、DAMは、ChEと非可逆的に結合しているリン酸化合物を引き離して自らに結合させ、ChEを賦活させる。アトロピンは、ムスカリン作用を抑えるために用いる。