副交感神経遮断薬(抗コリン薬、抗ムスカリン薬)



 副交感神経遮断薬は、副交感神経節後線維支配効果器官のムスカリン受容体を競合的に遮断する薬物である。 図 3.32 (p.103)
 副交感神経遮断薬の分類
  ・ベラドンナアルカロイド
  ・アトロピン代用薬

@ ベラドンナアルカロイド(アトロピン、スコポラミン)
 アトロピン、スコポラミンは、ベラドンナ、ロート、マンダラ、ヒヨスなどのナス科に属する植物から得られるアルカロイドである。アトロピン(dl-ヒヨスチアミン)は、抽出過程でラセミ体となるが、天然では l-ヒヨスチアミンである。

アトロピン、スコポラミン
 

薬理作用

・ムスカリン受容体においてAChと競合的に拮抗する。

末梢作用

・眼:散瞳(瞳孔括約筋の弛緩)、眼内圧上昇、遠視性調節麻(毛様体筋収縮抑制)
・腺分泌:胃酸、気管支、汗腺などの分泌を抑制。唾液腺の分泌抑制により口渇。
・平滑筋:胃腸管の緊張低下と運動抑制により鎮痙作用。気管支、胆のう収縮の抑制
・循環器:心拍数の増加(頻脈)

中枢作用

アトロピン:多量で中枢興奮作用、大脳運動領の興奮
スコポラミン:比較的少量で鎮静、運動領を強く抑制する

応用

鎮痙薬(向神経性鎮痙薬)、麻酔前投与(エ一テルなどの気道分泌抑制)、
散瞳薬(作用が持続性であるのが欠点)、消化性潰瘍、パーキンソン病、
有機リン系化合物による中毒

副作用と禁忌

口渇、眼内圧上昇(緑内障に禁忌)、排尿困難(前立腺肥大に禁忌)、視調節麻痺



〔眼平滑筋に作用する薬物〕 図3.29 (p.98)
副交感神経興奮薬(ピロカルピン、フィゾスチグミン)
 ・瞳孔括約筋 → 収縮 → 縮瞳
 ・毛様体筋 → 収縮 → シュレム管(開)→ 眼内圧低下
       → レンズ肥厚 → 近視性調節麻痺
副交感神経遮断薬(ホマトロピン、トロピカミド)
 ・瞳孔括約筋 → 弛緩 → 散瞳
 ・毛様体筋 → 弛緩 → シュレム管(閉)→ 眼内圧上昇
       → レンズ薄く → 遠視性調節麻痺

A アトロピン代用薬
 ベラドンナアルカロイドは強力な抗ムスカリン作用を示すが、持続が長く、かつ選択性がないため副作用等の面から改良されたアトロピン代用薬が合成された。
 (1) 散瞳代用薬
 アトロピンの散瞳作用は持続的で正常に戻るまでに長時間を要するため検査薬としてはあまり適していない。そのため持続時間の短い薬物を利用する。
 

薬物名・構造

要点

ホマトロピン

・抗コリン作用はアトロピンの約1/10程度。
・持続も短く約1〜2日で回復する。
〔応用〕調節麻痺、診断・治療を目的とする散瞳

トロピカミド

・速効性、持続は短い。(約20〜40分で作用は現れ、6時間で消失。)
〔応用〕ホマトロピンと同様

シクロペントラート

・抗コリン作用はアトロピンの約1/10程度。
・1時間以内に作用は現れ、90-120分程度持続。回復には1〜2日要する。
〔応用〕ホマトロピンと同様 〔禁忌〕緑内障



 (2) 鎮痙代用薬 他
 内臓平滑筋の緊張を緩和し、内臓痛を抑制する作用を持つ。
 また、4級アンモニウムの構造を持つため中枢性副作用もほとんどない。
 

薬物名・構造

要点

ブチルスコポラミン

〔応用〕消化性潰瘍、胃炎等におけるケイレン
    食道ケイレン、幽門ケイレン

メチルアトロピン

プロパンテリン

・副交感神経遮断作用の他、自律神経節遮断作用も持つ。
・平滑筋、分泌腺において作用を現わすが、循環器系、中枢神経系に対する副作用は弱い。
〔応用〕消化性潰瘍、幽門ケイレン等における疼痛

メチルベナクチジウム

・副交感神経遮断作用の他、自律神経節遮断作用、パパベリン様作用を持つ。
〔応用〕消化性潰瘍、胃炎におけるケイレン

メペンゾラート

・アトロピンとほぼ同様の作用を持つ。
〔応用〕過敏性大腸症

ピペリドレート

・消化管平滑筋の他、子宮平滑筋の収縮も抑制する。
〔応用〕切迫流産・早産、消化性潰瘍等における疹痛



 (3) 中枢性代用薬
   ・パーキンソン病における、線条体ドパミン作動性神経の機能低下とそれに伴うコリン
    作動性神経系の機能亢進のアンバランスを是正。特に振戦を伴う軽症例に有効。
   ・緑内障、重症筋無力症には禁忌
 

薬物名・構造

要点

トリヘキシフェニジル

・中枢性抗コリン作用は強力だが、末梢性抗コリン作用は弱い。
〔応用〕パーキンソン病や向精神薬投与によるパーキンソン症候群、ジスキネジア、アカシジア

ピペリデン

〔応用〕トリヘキシフェニジルと同様

プロフェナミン、マザチコール、メチキセン、ピロヘプチン

〔応用〕トリヘキシフェニジルと同様



 (4) 他のアトロピン代用薬
 

薬物名・構造

要点

ピレンゼピン
(ガストロゼピンR)

・ムスカリン受容体の中でもM1受容体を選択的に遮断して胃酸分泌を抑制する。
 平滑筋には作用しない。(誘導体にテレンゼピンがある)
・唾液分泌や心拍数に影響しない用量で胃酸分泌を抑制する。
〔応用〕消化性潰瘍(胃酸分泌抑制のみ)

イプラトロピウム
(アトロベントR)
フルトロピウム
(フルブロンR)
オキシトロピウム

・ムスカリン受容体遮断により気管支平滑筋を弛緩する。
・作用発現は遅いが持続時間は長い。
〔応用〕気管支ぜん息(吸入薬として使用),肺気腫
  ※ぜん息発作時の効果はβ2刺激薬より劣る。
〔禁忌〕緑内障、前立腺肥大,アトロピン・スコポラミン過敏症

フラボキサート
プロピベリン

・選択的に膀胱のムスカリン受容体を遮断し,膀胱平滑筋を弛緩する。
〔応用〕頻尿治療
〔禁忌〕緑内障、重症筋無力症,重篤な心疾患



○ 抗コリン薬の構造−活性相関  p.109