自律神経節に作用する薬物



・自律神経節シナプス後膜にあるニコチン様NN受容体は、節前線維から遊離されたAChにより刺激され、シナプス後膜の脱分極により、興奮を伝達する。 図3.37 (p.110)

・つまり自律神経節に作用する薬物とは、このニコチン様NN受容体に作用する薬物をいう。
・交感神経節にも副交感神経節にもニコチン様NN受容体が存在するが、自律神経節に作用する薬物がある一つの臓器において同時にそれぞれのニコチン様NN受容体に働くことはない。
・一つの臓器に対して拮抗的二重支配を行う自律神経だが、いずれかの神経が各臓器に対して優位に働いている。
  ・交感神経優位支配臓器:血管、汗腺(コリン作動性)
  ・副交感神経優位支配臓器:心臓、瞳孔、毛様体筋、消化管、膀胱、唾液腺
・自律神経節に作用する薬物は、この優位神経節のニコチン様NN受容体に対して働きかける。
・また自律神経節に作用する薬物は副腎髄質のニコチン様NN受容体に作用してエピネフリンの放出にも影響を与える。

1.自律神経節刺激薬
 自律神経節刺激薬は自律神経節に作用して、節後線維の興奮を起こす薬物をいう。
 

薬物名

要点  

アセチルコリン

ムスカリン様受容体遮断後、大量投与しなければ現れない。

ニコチン

少量投与の場合、節刺激作用を現わす(節遮断薬の頂を参照)。


 他にテトラメチルアンモニウム(TMA)、ジメチルフェニルピペラジニウム(DMPP)。

2.自律神経節遮断薬
 自律神経節において、AChによる興奮伝達を遮断する薬物を節遮断薬という。自律神経節は、交感神経と副交感神経に存在し、両者ともニコチン様作用であるため、節を遮断すれば、交感神経節も副交感神経節も遮断されることになる。しかし各臓器はいずれかの神経が優位であるため、臓器への影響は優位支配の神経が遮断された時と同じ結果が現れる。
 自律神経節遮断薬には競合的節遮断薬と脱分極性節遮断薬がある。それぞれ、節伝達、外来性の節興奮のいずれも抑制する。
 (例)血管は交感神経優位で、節を遮断すると交感神経節が遮断され、血圧が下降する。
    消化管は副交感神経優位で、節を遮断すると副交感神経節が遮断され、消化管の緊張
    が低下する。

@ 競合的節遮断薬
 競合的節遮断薬とは、自律神経節のニコチン様NN受容体においてAChと競合的に拮抗するものをいう。
 

薬物名・構造

要点

ヘキサメトニウム(C6)

・2個の4級アンモニウムの間に炭素鎖が6個。
・消化管からの吸収が悪く、血液一脳関門を通りにくいので、中枢作用はない。
・NN受容体の競合拮抗薬と考えられてきたが、現在では、Na チャネルのuse-blockであると考えられている。

トリメタファン

・S+(スルホニウム)をもつ。
・作用発現は速く、持続は短い。
・ヒスタミン遊離作用、血管拡張作用(パパベリン様作用)を現す。
・全身麻酔時の低血圧維持の目的で点滴静注により使用。



A 脱分極性節遮断薬
 脱分極性節遮断薬とは、自律神経節のニコチン様NN受容体に作用して、はじめ脱分極を発生し、節後線維を興奮させる。しかし後に持続的脱分極を起こすため節遮断作用を有する。
 

薬物名・構造

要点  

ニコチン

・タバコ葉のアルカロイドである。
・少量で興奮、多量で抑制。
〔少量投与〕
 ・自律神経節のシナプス後膜を脱分極し、各器官において優位支配神経の興奮効果
  (血圧上昇、心拍数減少、縮瞳、腸管収縮、胃液分泌促進など)がみられる。
 ・副腎髄質からのエピネフリンの分泌は増加する。
 ・運動神経節接合部においてもニコチン様作用が現れ、骨格筋の収縮をきたす。
〔多量投与あるいは少量投与後期〕
 ・シナプス後膜を持続的に脱分極し、優位支配神経の興奮効果は遮断される。
 ・骨格筋は弛緩する。
〔中枢作用〕
 ・初め中枢興奮作用を示し、次いで小脳→延髄→脊髄の順で抑制作用が現れる。
 ・カテコールアミン放出を介した、疲労回復感。
〔毒性〕
 ・吐き気、嘔吐、下痢、徐脈、血圧上昇、頻脈
 ・癌、末梢循環障害、虚血性疾患、消化性潰瘍のリスクファクター
〔中毒〕
 ・呼吸麻痺(呼吸筋弛緩)
※臨床的には禁煙補助薬として応用される。 ex) ニコレット



自律神経の優位性と節遮断効果
 

支配臓器

有意な神経

節遮断効果 

血管

交感

血管拡張により血圧降下、起立性低血圧

汗腺(コリン作動性)

交感

分泌減少(制汗)

心臓

副交感

心拍数増加(頻脈)

瞳孔

副交感

散瞳

毛様体筋

副交感

遠視性調節麻痺、眼内圧上昇

消化管

副交感

緊張・運動の低下(便秘)

膀胱

副交感

尿貯留(尿閉)

唾液腺

副交感

分泌減少(口渇)