受容体



 受容体(Receptor)とは、外界からの刺激・情報などを受け入れる細胞内の特別な構造体であり、化学物質が作用する標的細胞の作用部位となる。受容体はたん白質で構成されているが、主なものは細胞膜上に存在し、その構造から、イオンチャネル内蔵型、Gたん白質(GTP結合たん白質)結合型、チロシンキナーゼ関連型の三タイプに分類される。その他、ホルモン受容体などの中には細胞質や細胞核内に存在する受容体もある。

細胞膜受容体の分類
 

受容体

機構

イオンチャネル内蔵型(4-5回貫通型)

ニコチン(NN、NM)受容体
グルタミン(non-NMDA型)酸受容体
セロトニン5HT3受容体

Na+チャネル開口によるNa+ の細胞内流入→脱分極

GABAA受容体

Cl-チャネル開口によるCl-の細胞内流入→過分極

グリシン受容体

グルタミン酸(NMDA型)受容体

Ca2+ チャネル開口によるCa2+ の細胞内流入

Gたん白質(GTP結合たん白質)結合型(7回貫通型)

Gq
(Gp)

α1受容体、M1受容体、M3受容体、H1受容体、
セロトニン受容体(5-HT2A, 2B, 2c)
アンギオテンシン受容体、
ブラジキニン受容体、
LT受容体、トロンビン受容体、
オキシトシン受容体 他

PIレスポンス(PI代謝回転)活性化

Gs

β1, 2, 3 受容体、D1受容体、H2 受容体、
グルカゴン受容体、TSH受容体
セロトニン受容体(5HT4)他

アデニル酸シクラーゼ活性化Gs→stimulate

Gi

α2受容体、M2受容体、D2受容体
GABAB受容体
セロトニン受容体

アデニル酸シクラーゼ抑制
Gi→inhibit:抑制

チロシンキナーゼ関連型(1回貫通型)

受容体
EGF受容体 他

チロシンキナーゼ活性化


(注1)M2受容体には、心筋に局在するアデニル酸シクラーゼ抑制に関わるGiたん白結合型の他、心臓ぺ一スメーカーに局在するK+チャネルの開口に関わるGkたん白結合型がある。
(注2)GABAB受容体には、アデニル酸シクラーゼ活性抑制に関わるGiたん白結合型のものが存在する他、K+チャネルの開口に関わるものや、Ca2+チャネルを抑制するもの、その他PIレスポンス活性化に関わるものなど、複数の細胞内伝達系に関係するサブタイプが存在すると考えられている。

 Gたん白質にはGq(Gp)、Gs、Giのサブタイプがあるが、いずれのGたん白質もα、β、γ のサブユニットからなり、αサブユニットにGTPase活性がある。
 生体内の化学伝達物質は勿論のこと、ホルモンなどの生理活性物質や種々の薬物も受容体を介して情報伝達系に働きかけ、物質特有の作用を示す。
 また、これらの様々な情報伝達系に作用するものとして、細菌が産生する毒素などもある。その中にはGたん白質を標的とするものがあり、コレラ毒素や百日咳毒素がその代表である。
 コレラ毒素は、Gsたん白質中のアルギニンのADPリボシル化によりGTPase活性を消失させ、Gsたん白質の活性状態を維持させる。すると、受容体とは無関係にアデニル酸シクラーゼが活性化され続け、cAMP が蓄積する(結果として、水様性の下痢症状を起こす)。
 百日咳毒素は、Giたん白質中のシステインをADPリボシル化し、アデニル酸シクラーゼの抑制的調節を行っているGiたん白質の受容体への結合性を消失させる。これにより、アデニル酸シクラーゼの抑制機能が遮断され、結果として気管支病変や全身症状が発現する。

<PIレスポンスの活性化>
 例えば、α1受容体などは受容体の刺激により連関したGたん白質(Gq (Gp) たん白質)が、ホスホリパーゼCを活性化しホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PlP2)を分解し、イノシトール-1,4,5-三リン酸(IP3)とジアシルグリセロール(DAG)を産生する。産生したIP3は小胞体からCa2+を細胞質内へ遊離させる(Ca2+動員)。このCa2+がもう一つの代謝産物DAGとホスファチジルセリンと協力しプロテインキナーゼC(C キナーゼ)を活性化する。

 刺激薬
  ↓
 受容体(ex. α1受容体)――→ Gたん白質(Gq(Gp)たん白質)
                    ↓活性化            C キナーゼ活性化
                 ホスホリパーゼC             ↑
             PIP2――――――――――――→ IP3 + DAG    Ca2+
                             |         ↑ 遊離
                              -――――→ Ca2+(小胞体内)


<アデニル酸シクラーゼ活性・抑制>
 例えば、β受容体などは、受容体の刺激により促進性Gたん白質(Gsたん白質)を介して、アデニル酸シクラーゼ活性が増加し、アデノシン-3',5'-サイクリックモノホスフェート(Adenosine--3',5'-cyclic Monophosphate:cAMP)を生成する。生成したcAMPはプロテインキナーゼA(A キナーゼ)を活性化する。
 これに対して、例えばα2受容体などは、受容体の刺激より抑制性Gたん白質(Giたん白質)を介してアデニル酸シクラーゼ活性を抑制し、cAMPの生成を抑制する。

刺激薬
  ↓
 受容体(ex. β受容体)――→ 促進性Gたん白質(Gsたん白質)
                    ↓活性促進           
                 アデニル酸シクラーゼ      ホスホジエステラーゼ     
             ATP ――――――――――――→ cAMP ―――――――――→ AMP
                    ↑         ↓
                    |活性抑制    A キナーゼ活性化
 受容体(ex. α2受容体)――→ 抑制性Gたん白質(Giたん白質)
  ↑
 刺激薬