局所麻酔薬


 
 末梢の知覚神経線維に作用して、求心性インパルスの伝導を遮断することにより、意識や反射機能を損なわないで、目的とする部分の知覚を鈍麻、又は消失させるような薬物を局所麻酔薬という。
 これに対して鎮痛薬は、中枢神経系に作用して痛覚を感じさせないようにする薬物で、局所麻酔薬とは異なるものである。

 神経線維は、細胞膜で覆われ、静止膜電位は-70 mV前後である。静止時は外側が(+)に、内側は(-)に分極している。
 神経が興奮すると細胞膜のNa+透過性が増大し、Na+が流入し、外側が(-)、内側が(+)に荷電して脱分極し、活動電位が発生する。この神経興奮は、細胞膜に沿って移動する。

1.局所麻酔薬の作用機序
 局所麻酔薬は、神経線維に作用して細胞の内側からNa+の細胞内への流入を抑制し、脱分極阻止(膜の安定化)、活動電位の発生抑制により、インパルスの発生、伝導を抑制する。
 局所麻酔薬を投与すると、通例、無髄線維から始まって、細い有髄線維(知覚神経)、最後に太い有髄線維(運動神経)が麻酔される。また、局所麻酔薬は活性化されたNa+チャネルに作用しやすい。
  

 痛覚消失 → 温度感覚消失 → 触覚消失 → 自己受容体感覚消失 → 骨格筋弛緩


 
 局所麻酔薬はアミン型の弱塩基であって、その塩(塩酸塩)の水溶液として投与されるが、細胞外液のpHで一部が遊離塩基(非イオン型)に変化し、結合組織、細胞膜を通過する。
 作用部位に達した局所麻酔薬が活動電位の発生を抑えるのは、その窒素がカチオン(4級アンモニウム)型になったものであるといわれている。

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2.局所麻酔薬の適用法
  

 方法

 適用部位 

 適  応 

表面麻酔

粘膜(口腔、咽頭、結膜など),角膜
組織浸透性のよい薬物が適する。(脂溶性の高いもの)

挿管,外傷,火傷,潰瘍の疼痛除去

浸潤麻酔

手術部位の周辺に皮下または皮内注射、知覚神経の末端

抜歯,皮膚の手術など

伝導麻酔

神経幹、神経節の周辺に注射し、その神経支配の領域に比較的広範囲に作用する。神経線維の途中

三叉神経痛,骨折整復など

硬膜外麻酔

脊柱管内の硬膜外腔に注射。脊髄後根の周辺

下腹部,胸部の手術

脊髄麻酔
(腰髄麻酔など)

脊柱管内のくも膜下腔に注射。脳脊髄液

下半身の手術



  (付)脊髄をおおっている膜(硬膜>クモ膜>脳脊髄液の還流>軟膜>脊髄)

3.血管収縮薬の効果
 合成局所麻酔薬の多くは血管拡張作用を有するため、作用持続時間の短縮をきたす。そこで、局所での薬物吸収を阻止し、作用時間の延長と局所麻酔薬の吸収による副作用防止の目的として、血管収縮薬が添加される。
 〔併用される血管収縮薬〕エピネフリン、ノルエピネフリン、フェニレフリン
 〔血管収縮薬を併用しなくてもよい局所麻酔薬〕コカイン、メピバカイン

4.局所麻酔薬
  

1)エステル型

コカイン,プロカイン,テトラカイン,オキシプロカイン

2)アミド型

リドカイン(キシロカイン),メピバカイン

3)キノリン型

ジブカイン

4)その他

アミノ安息香酸エチル,オキセサゼイン



 

薬物名・構造

要点 

適用方法

コカイン

・コカの葉に含まれるアルカロイドである。(左旋性のものが活性体)
・組織浸透作用が大きい。
・交感神経終末のアミンポンプを阻害してNEの再取り込みを遮断→血管収縮(エピネフリン添加不要)
・点眼で散瞳。
〔副作用〕
 中枢興奮作用(大脳皮質→延髄、脊髄)
 (コカイン急性中毒には超短時間作用型のバルビツール酸誘導体を用いる。)
 精神的依存(麻薬)

表面麻酔


 

薬物名・構造

要点 

適用方法

プロカイン

・麻酔作用の強さは、コカインと同じである。
・粘膜への浸透性が悪い。
・血管拡張作用を持つため、エピネフリンの併用が必要である。
・心筋に対してキニジン様作用を示す。(抗不整脈作用)
・血漿エステラーゼで分解され、パラアミノ安息香酸を生成する。(サルファ剤の抗菌作用を減弱する)

浸潤麻酔
伝導麻酔
脊髄麻酔
硬膜外麻酔

リドカイン
(キシロカイン)

・他の局所麻酔薬に比べて安全域が広い薬物である。
・作用発現が速く、持続時間が長い。
・不整脈の治療薬としても重要である。(心室性不整脈に有効)
〔副作用〕眠気、倦怠感

表面麻酔
浸潤麻酔
伝導麻酔
脊髄麻酔
硬膜外麻酔

ジブカイン

・局所麻酔薬の中でも効力、毒性ともに強力。
・血漿エステラーゼによって分解されにくい。

表面、浸潤、伝導、脊髄麻酔

テトラカイン

・プロカインの約10倍の毒性、効力を有する。
・プロカインに比べ作用発現時間は遅く、血漿エステラーゼにより分解されにくい。

表面、浸潤、伝導、脊髄、硬膜外麻酔

メピバカイン

・リドカインに類似した構造で、基本的には同じ作用を示すが、速効性である。
・血管拡張作用がないため、エピネフリンは添加不要。

浸潤、伝導、脊髄、硬膜外麻酔



 

薬物名・構造

要点 

適用方法

アミノ安息香酸エチル

・水に難溶性のため注射剤としては用いず、散布剤、軟膏剤に用いられる。
・強酸性下でも安定であるため、胃痛、嘔吐の抑制のために内服することがある。

表面麻酔

オキセサゼイン

・コカイン、プロカインより強力である。
・胃粘膜からのガストリン分泌を抑制し、二次的に胃酸分泌を抑制する。(消化性潰瘍に応用される。)
・強酸性下でも安定であるため、内服で食道炎、胃炎に伴う痛み、嘔吐の抑制に用いられる。

表面麻酔