図:血中薬物濃度と薬理効果ならびに有害反応発現の関係
図:睡眠薬の使用量による薬効の変化
2)作用様式
a. 興奮作用と抑制作用 b.
直接作用と間接作用
c. 局所作用と全身作用 d.
速効性作用と遅効性作用
e. 一過性作用と持続性作用 f.
選択的作用と一般作用
g. 主作用と副作用
3.薬物の作用機序
1)薬物受容体 2)酵素系に対する作用 3)シナプスに対する作用
4.薬物動態
1)薬物の吸収
2)薬物の分布(薬物の物理化学的性質,薬物のタンパク結合,血液−脳関門,血液−脳脊髄液関門,胎盤関門)
3)生体内変化(チトクローム P-450
による薬物の酸化,薬物による薬物代謝酵素の誘導)
図:チオペンタール静注後の体内での再分布(Price
et al., 1960 より)
表:各注射法の特徴
図:投与部位の違いによる作用の強さと持続時間
5.薬物の併用
1)協力作用
a.
相加作用−作用方向,作用点が同じで薬物の作用がおのおのの作用の代数和.
例:エーテルとハロタン(麻酔),アトロピンとスコポラミン(鎮痙),クロルプロマジンとプロマジン(静穏),モルヒネとコカイン(鎮痛,鎮咳),バルビタールとペントバルビタール(催眠)
b.
相乗作用−作用点が異なり,機序も異なる2薬(以上)が協力的に作用し,その作用が代数和以上になる.
例:エーテル(全身麻酔薬)とクロルプロマジン(抗精神病薬)→麻酔作用で相乗的.バルビツレート(催眠薬)とアミノピリン(鎮痛薬)→鎮痛作用で相乗的,MAO
阻害薬とイミプラミン(抗うつ薬)→中枢興奮作用で相乗的,グアネチジンとクロロチアジド(利尿薬)→降圧作用で相乗的,コカインとエピネフリン→交感神経興奮作用で相乗的
相乗作用の発現機序
a. 吸収の促進 b. 代謝の阻害 c.
排泄の阻害
d. 血漿タンパクとの結合解離 e.
作用部位での濃度上昇
2)拮抗作用
a. 競合的拮抗−A, B 2薬の作用点が同一で,A は活性物質,B
が不活性物質である時.(A と B
が同一受容体に作用する時)
表:競合的拮抗の例
*1)純粋な競合性はセロトニンの場合,成立しにくいといわれる.
*2)ナロルフィンはパーシャルアゴニストで,アゴニストでもありアンタゴニストでもある.
b. 非競合的拮抗−A と B
が全く異なる所に作用し,両者が相反する作用を持つ時.
例:ストリキニーネとメフェネシン(痙攣),ピクロトキシンとフェノバルビタール(痙攣),アセチルコリンとパパベリン(小腸平滑筋),ピクロトキシンと
GABA(痙攣)
c.
生理的拮抗(機能的拮抗)−2つの薬物が相反する生理作用を現す時の拮抗.
例:アセチルコリンとエピネフリン(腸管),ヒスタミンとエピネフリン(気管支平滑筋),エーテルとジモルホラミン,ベメグリド(呼吸),ピロカルピンとノルエピネフリン(瞳孔)
d.
化学的拮抗−活性を持つ薬物が他の薬物と化学反応を起こし不活性化される.
例:Ca2+,
Pb2+とEDTAの結合,Cu2+とペニシラミンンの結合,有機リン化合物とコリンエステラーゼの結合をPAM
が解離,ジメルカプロールとHg2+, As3+
(亜ヒ酸など),HCN にチオ硫酸ナトリウム.
6.新薬の評価
新しい医薬品が臨床の場に供給されるまでの一般的な流れ
1)非臨床試験(実験動物によるスクリーニング):GLP
基準に従う.
a. 薬効薬理試験(主作用の確認)
b.
一般薬理試験(治療目的以外の作用も調べる)
c. 一般毒性試験(急性,亜急性,慢性毒性)
d.
特殊毒性試験(生殖毒性,抗原性,変異原性,局所刺激性など)
e.
薬物動態試験(薬物の吸収・分布・代謝・排泄などについて)
f. 生化学的試験(作用機序などの解明など)
g.
製剤学的試験(薬物の安定性や吸収性など)
2)臨床試験:GCP 基準に従う.
a. 第 I
相:少数の健常人で薬物動態と安全性
b. 第 II 相
前期:少数の患者で薬物動態と安全性
後期:やや多数の患者で,薬物動態,安全性,投与量,投与方法の検討
c. 第 III
相:多数の患者を用いた本格的臨床試験(二重盲検法が主体となる)
d. 第 IV 相:市販後の副作用,安全性の追跡
7.薬物の連用
8.薬物依存
Irwin
の多次元観察法
検体の諸用量をマウスに投与し,発現した行動変化,神経症状,自律神経症状および中毒症状などを多角的に観察分析し,定められた方式で系統的に記入,解析する方法.各観察項目について症状の強度を点数で表示するので,定量的評価が可能.
1)行動的側面(Behavioral profil)
a. Awareness(認知力)
Alertness(警戒性),Visual
Placing(視角による位置認識),
Passivity(受動性)
b. Mood(気分)
Grooming(身づくろい),Vocalization(発声),Restlessness
(落着きのなさ),Irritability(いらだち),Aggression(攻撃性),
Fearfulness(恐怖)
c. Motor Activity(運動性)
Reactivity(反応性),Spontaneous
Activity(自発運動),Touch
Response(触反応),Pain
Response(疼痛反応)
2)神経学的側面(Neurological profil)
a. CNS Excitation(中枢興奮)
Startle Response(驚き反応),Straub
Tail(挙尾反応),Tremor
(ふるえ),Twitches(攣縮),Convulsions(痙攣)
b. Motor Incoordination(運動協調障害)
Body Position(体姿勢),Limb
Position(四肢の位置),
Staggering Gait(よろめき歩行),Abnormal
Gait(異常歩行),
Righting Reflex(とんぼ返り試験→somersault
test),
c. Muscle Tone(筋緊張度)
Limb Tone(躯幹),Abdominal
Tone(腹筋緊張度)
d. Reflexes(反射)
Pinna Reflex(耳介反射),Corneal
Reflex(角膜反射)
Ipsilateral Flexor
Reflex(同側屈筋反射)
3)自律神経生側面(Autonomic profil)
a. 眼兆候
Pupil Size(瞳孔径),Palpebral
Opening(眼裂),Exophthalmos
(眼球突出)
b. 分泌兆候
Urination(排尿),Salivation(流涎)
c. 一般兆候
Writhing(もだえ反応),Piloerection(立毛),Hypothermia
(体温下降),Skin Color(皮膚色),Heart
Rate(心拍数)
Respiratory Rate(呼吸数)
その他の観察項目
Consciousness(意識),Exploratory response(探索反応),Lack
of huddling behavior(群居行動欠欠如),Loss of withdrawal
reflex(撤去反射消失),
化学伝達の基礎
図:神経軸索における興奮伝導
図:シナプスにおける神経伝達過程
図:
神経活動電位とNa+, Ca2+ と K+
チャネルの活動の時間経過
神経細胞の内液は比較的高濃度の
K イオンを含んでいるが,Na イオンや Cl
イオンの濃度は低い.外液ではこの比率が逆転している.すなわち,外液では
K イオンの濃度は低く,Na イオンや Cl
イオンの濃度は高い.静止膜においては Na イオンよりも K
イオンに対してはるかに透過性が高い.従って K
イオンは濃度勾配に従い,細胞内から漏出する傾向にあり,内側が負の電位を生じさせる.
細胞外のCl
イオンは,細胞内より高い.従って,Cl
イオンはこの濃度勾配に従って細胞外から細胞内に引き入れられようとする.一方,細胞内は細胞がいよりも負電位になっているから,Cl
イオンはこの電位勾配によって細胞外に押し出されようとする.この両方の力によって内向きの
Cl
イオンの流れと外向きの流れが等しくなって平衡に達する.この平衡を維持するような電位を“平衡電位”と呼ぶ.
膜の脱分極刺激により,Na+
チャネルが開き内向き電流が流れ,膜電位は Na+
の平衡電位(ENa)に近づく.膜電位が閾値電位(-55
mV)以上になると急速に膜電位が上昇し,軸索の刺激により Na
イオンが軸索内に流入することになる.膜電位が 0 mV
を越えたとき,“活動電位”となる.次いで K+
チャネルが開き,外向き電流が流れ,K+
の平衡電位(EK)に近づくため,膜電位は静止状態に戻っていく.Na+
電流に送れて,Ca2+
の内向き電流が流れる細胞もある(例:心筋細胞).
この時の細胞の状態は,細胞内に
Naイオンが入り,細胞外に
Kイオンが出ていってしまっている状態なので,次に脱分極刺激が来ても,細胞は興奮することが出来ない.この状態を“不応期”と呼ぶ.
図:
神経インパルスの加重および抑制の模式図
A:
興奮性シナプスにおける伝達の状況.NE
からの影響が弱いとき(刺激Sが弱いとき)には小さい EPSP がおこり,EPSP
がある大きさになるとスパイク電位が現れる.
B:
刺激が弱いために,それだけではスパイク電位は現れないが,同じ弱い刺激を間隔を縮めて与えると,EPSP
が重なりあって,ある大きさになりスパイク電位が現れる.時間的加重
temporal summation という.
C: NE1
だけからの影響では,小さい EPSP のためにスパイク電位は現れないが,NE2
からの影響が同時にくると,EPSP
が重なりあってスパイク電位が現れる.空間的加重 spatial summation
という.
D:
抑制性シナプスにおける伝達の状況.NI
からの影響が弱いとき(刺激Sが小さいとき)には,小さい IPSP
がおこるが,IPSP
が大きくなってもスパイク電位は現れない.
E: NE
からの興奮性シナプスによる EPSP とNI からの抑制性シナプスによる IPSP
が相殺されている状況.NE からの強い影響によるスパイク電位は,NI
からの影響によって,現れなくなる.
F:
興奮性シナプスの終末分岐に働きかけて,伝達物質の放出を阻止する抑制の型であってシナプス前抑制
presynaptic inhibition という.ND
(D型細胞)は活動電位に変化を起こさないが,NE と同時に働くとNE による
EPSP を抑制する.
全身麻酔薬
1.麻酔の順序
図:
麻酔の順序(不規則性下降性抑制)
2.麻酔前投薬
1)不安の防止,手術前の睡眠:ジアゼパムなどベンゾジアゼピン系薬物
(抗不安薬),バルビツレート
2)痛みの除去:モルヒネ,ペチジン,ペンタゾシン
3)気管支分泌・徐脈などの迷走神経刺激を抑制:アトロピン,スコポラミン
4)制吐:クロルプロマジンなどのフェノチアジン系誘導体
5)基礎麻酔(麻酔導入):チオペンタールNa,チアミナールNa,トリブロ
モエタノール
6)筋弛緩:d-ツボクラリン
3.麻酔の経過
図:麻酔の深度と各種の徴候との関係
4.全身麻酔薬の種類
図:エーテルの中枢作用
催眠薬
1.バルビツール酸誘導体
1)薬理作用
a.
睡眠作用:脳幹網様体賦活系を抑制し,上行性覚醒刺激を抑制
パラ睡眠も抑えてしまい,自然の睡眠とは異なる.
b.
抗痙攣作用:大脳皮質運動領の抑制(フェノバルビタールなど)
c.
鎮痛薬の鎮痛作用を相乗的に増強:ピラビタール
図:上行性脳幹網様体賦活系と脳波
2)副作用
a.
延髄の呼吸中枢を麻痺:解毒には,ベメグリド,ジモルホラミンなど
の延髄興奮薬
b. 延髄の血管運動中枢抑制:著明に血圧下降
c.
耐性・依存性:肝ミクロゾームの薬物代謝酵素を誘導
連用により精神的,身体的依存が発現.投与中止によ
り禁断症状(不安,振戦,幻覚など)が出現
図:バルビツレートの中枢内作用部位
2.麻酔と睡眠の違い
麻酔:自発的に横位または背位をとり,いかなる刺激にも無反応
睡眠:他動的に横位または背位をとらせることができる.しかし,弱い刺激でも起きる.
図:
睡眠時脳波
向精神薬
1.抗精神病薬(Major
tranquilizer):クロルプロマジン,ハロペリドール
1)クロルプロマジンの薬理作用と作用点
a. 静穏作用(大脳辺縁系,視床下部の抑制)
b.
麻酔薬,催眠薬などの作用を相乗的に増強(脳幹網様体への刺激入力
抑制)
図:クロルプロマジンによる催眠作用増強作用の作用機序
c.
体温降下作用−正常体温も下降(視床下部の抑制)
d. 制吐作用(CTZ への作用)
e. 抗アドレナリン作用
f.
条件回避反応の抑制(動物は条件刺激(音,光)に無関心となり,無
条件刺激(電気ショック)によってはじめて逃避する)
2)クロルプロマジンの副作用
a.
錐体外路系障害(筋固縮,振戦,運動減退):主に線条体のドパミン
受容体を遮断するため
b. 黄疸を主徴とする肝障害
c. 起立性低血圧
2.抗不安薬(Minor
tranquilizer):ジアゼパム,メプロバメート,クロルジアゼポキシド,ヒドロキシジン
1)ベンゾジアゼピン誘導体の薬理作用と作用点
a.
中枢性筋弛緩作用,抗痙攣作用(脊髄介在ニューロンの遮断による多
シナプス反射の抑制)
図:錐体路および錐体外路の模式図 図:
黒質−線条体を中心とした神経回路網
b.
静穏作用,馴化作用(動物において攻撃行動を抑制する),抗不安作
用(扁桃核,海馬などの大脳辺縁系の抑制)
c. 条件回避反応を抑制せず.
図:ベンゾジアゼピン類による馴化作用の作用点
2)ベンゾジアゼピン誘導体の副作用
a. 傾眠
b. 連用による依存性・耐性,禁断症状
向精神薬のスクリーニング法
1.行動薬理学的方法
1)一般行動観察:Irwin
の多次元観察法
一般行動および急性毒性
2)運動活動量の測定
a. 振盪篭法 b. 動物行動記録装置 c. Hole
Cross試験
d. 回転篭法 e.
走路法(Y字型走路など)
3)オープンフィールド法(情動性の測定)
歩行量(Ambulation),立ち上がり(rearing),身づくろい
(grooming),脱糞(defecation),排尿(urination)など
4)旋回行動(circling behavior)の抑制
図:黒質−線条体ドパミン神経系の片側破壊モデル,ドパミン作動薬による旋回行動
片側の黒質あるいはドパミン神経系を電気破壊または
6-ハイドロキシドパミンによって破壊した後,アポモルヒネを投与すると,破壊側と反対方向へ,メタンフェタミンでは破壊側と同方向へ旋回(ドパミン神経活動の低いほうへ旋回)する.
5)薬物との拮抗または増強作用
中枢興奮薬
a.
バルビタールとの拮抗:麻酔,睡眠作用,体温下降
b.
レセルピンとの拮抗:眼瞼下垂(ptosis),鎮静,体温下降,カタレプシー
c. テトラベナジンとの拮抗:鎮静,カタレプシー
d.
5-ハイドロキシトリプトファンの作用の増強:
マウスの首振り行動,興奮
e.
トリプタミンの作用の増強:間代性痙攣(ラットに静注)
f.
アポモルヒネによる強制的噛みつき行動(biting)の増強
中枢抑制薬
g.
バルビタール,エーテルの作用の増強:麻酔,体温下降
h. アンフェタミンとの拮抗:常同行動(stereotyped
behavior),運
動量増加
i. LSDとの拮抗:後ずさり歩行(backward
locomotion),首振り行
動,常同行動,シャム闘魚の異常行動
j.
メスカリンとの拮抗:運動量増加,サルの視覚異常
k. ストリキニーネとの拮抗:痙攣
l. ピクロトキシンとの拮抗:痙攣
m. アポモルヒネとの拮抗:嘔吐作用
6)実験的に誘発した攻撃行動(抗不安薬のスクリーニング)
攻撃行動の抑制----馴化作用 を指標
a. 中隔野破壊ラット b. 嗅球摘出ラット c.
長期隔離飼育マウス
d. 電気刺激(foot
shock)によるマウスの闘争行動(fighting
behavior)
7)本能行動を利用した方法
a. 造巣本能 b. 闘魚の闘争性 c.
サルの凶暴性
8)条件行動を利用した方法
a. 条件回避法 b. 陽性強化法 c.
条件性抑制(条件情動反応)
e. 薬物弁別反応
2.電気生理学的方法
a. 脳波 b.
神経細胞電位,神経膜電位
c. イオントフォレイシス(微小電極法)
3.生化学的方法
a. 血液,尿,脳脊髄液 b. 生体電極法 c.
表層傾向測定法
d. 動静脈差法 e. 脳内微小透析法 f.
脳内代謝回転率測定法
g. 脳組織の凍結固定法,マイクロウェーブ法 h.
軸索輸送の測定法
i.
脳切片,分離細胞,細胞下分画法(神経伝達物質の合成,代謝,遊離,
再取り込み,結合実験など) j. 組織培養法 k.
組織化学法,蛍
光組織化学法
4.分子生物学的方法
抗痴呆薬のスクリーニング法
1.学習・記憶試験法
1)受動的回避反応(Passive avoidance
response)
a. Step-down 型 b. Step-through 型
2)能動的回避反応(Active avoidance
response)
a. レバー押し型 b. シャトルボックス型 c.
棒登り法 など
3)迷路試験
a. 直線迷路 b. T迷路 c. Y迷路 d. 水迷路 e.
放射状迷路
4)その他
2.学習・記憶障害動物の作成法
1)訓練方法で誘発された健常動物の学習・記憶不全(例えば,訓練時間の短
縮や訓練感覚の延長)
2)老化動物(生後 1.5
年以上のマウス,ラット)
3)老化促進動物の開発(SAM P8, SAM P10
など)
4)遺伝的な学習・記憶不良動物
5)痙攣(電気的,薬物的(ピクロトキシン,ビククリン)誘発健忘)
6)痲酔による健忘
7)低酸素状態負荷誘発健忘(CO2, CO,
N2, KCN, etc.)
8)脳各部位の実験的損傷
9)実験的脳虚血
10)実験的脳震盪
11)薬物で誘発された健忘(スコポラミン,ジゾシルピン,メカミラミン,蛋
白質合成阻害剤(サイクロヘキシミド))
12)その他
図:水迷路法による空間記憶に関する試験
アセチルコリン(ACh)
1)生合成と貯蔵:コリン作動性神経終末で生合成され,シナプス小胞に貯蔵
ヘミコリニウムは,ACh
生合成部位へのコリンの取り込み,輸送を阻害して ACh
の生合成を阻害する.従って,ヘミコリニウムの投与はコリン作動性神経の
ACh 量を減少させる.
2)ACh によるシナプス伝達機構
神経終末にインパルスが流れてくると,細胞膜の
Ca2+ 透過性が上昇.
細胞質の Ca2+
濃度が上昇すると,シナプス小胞は細胞膜に融合し,ACh
が遊離される.
遊離した ACh
はムスカリン受容体と結合→効果細胞を興奮(シナプス後膜の脱分極)
3)代謝:シナプス間隙に存在する ACh
は,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって酢酸とコリンに分解される.
学習・記憶の過程
学習行動は記憶を必要とする.記憶は,環境との相互作用によって生ずる脳内の持続的な変化である.
記憶とは: 学習の獲得 → 固定 → 保持 → 再生 する一連の過程
短期記憶(一時的な記憶:閉回路を信号が巡回する動的過程)
長期記憶(神経回路網での監らかの形態学的変化,遺伝子発現?)
図:Basal forebrain nuclei
とこの神経核からのコリン作動性神経の投射
図:学習・記憶の神経経路
中枢興奮薬
1.大脳皮質興奮薬:覚醒アミン,カフェインなど
2.脳幹興奮薬:ジモルホラミン,ニケタミド,カンフル,ピクロトキシン,ペンテトラゾール,ベメグリド(バルビツレート中毒ばかりでなく中枢抑制薬による呼吸麻痺に拮抗する)
1)ピクロトキシンの薬理作用と作用点
a. 延髄で嘔吐,呼吸,血管運動中枢を興奮
b.
大量で脳幹〜大脳皮質に作用して間代性痙攣を誘発(自発的痙攣)
c. 脊髄動物では,痙攣を起こすのに大量必要
2)作用機序
a.
シナプス前抑制の抑制:抑制性ニューロンから放出される神経伝達物質,GABA
と拮抗する.
図: GABA 受容体と Cl-
チャネルの複合体モデル
Cl- チャネルに
GABA
受容体とベンゾジアゼピン受容体,さらにピクロトキシン/バルビツール酸受容体が共役しているモデル. マは促進,モは抑制を示す.
ベンゾジアゼピン受容体にベンゾジアゼピン類が結合すると,GABA
受容体が活性化され,GABA に対する親和性が増加する.GABA 受容体に GABA
が結合すると,Cl- チャネルは開口し,Cl
イオンの透過性は亢進する.ピクロトキシンは直接 Cl-
チャネルに結合し,チャネルを閉じ,バルビツール酸系薬物は逆にCl-
チャネルを直接開く作用がある.
図:
脊髄における運動神経の働き
3.脊髄興奮薬:ストリキニーネ
1)ストリキニーネの薬理作用
a.
脊髄反射を亢進:わずかな外来刺激でもはげしい強直性痙攣を誘発
強直性痙攣には近く刺激が必要
b.
メフェネシンと拮抗する(脊髄の多シナプス反射の抑制)
図:
多シナプス反射と単シナプス反射
2)作用機序
a.
シナプス後抑制:運動神経から反回するレンショウ細胞(抑制性ニューロン)から放出される神経伝達物質,グリシンと拮抗し,抑制性ニューロンの作用を遮断
図:
ピクロトキシンによるシナプス前抑制とストリキニーネによるシナプス後抑制
4.ピクロトキシンとストリキニーネの痙攣の比較
鎮痛薬のスクリーニング法
鎮痛検定法
鎮痛の指標:仮性疼痛反応(逃避または防御反応)
問題点:骨格筋弛緩作用,鎮静作用などとどのように区別するか?
1.機械的刺激法(圧刺激法)
1)定圧刺激法:尾根,四肢(Haffner 法)
2)閾値圧刺激法:尾根,四肢(Randall-Selitto
法など)
cf. Randall-Selitto 法---
麻薬性鎮痛薬と解熱性鎮痛薬の区別可能
2.熱刺激法
1)輻射熱法:尾尖部,背部皮膚,後肢(Tail flick 法,D'Amour
& Smith 法)
2)伝導熱法
a. 熱板(Hot plate 法) b. 温湯法:尾尖部(Tail flick
法)
3.電気刺激法:尾根部,歯髄,肛門粘膜,陰のう,足蹠
4.化学的刺激法
a. 酢酸(腹腔内) b.
フェニルベンゾキノン(腹腔内)
c.
ブラジキニン(腹腔内,背部皮下,動注(発声,前肢の屈曲,頭部の
回転)) d. ホルマリン(背部皮下)
麻薬性と非麻薬性の鑑別
1.ナロルフィンまたはナロキソンとの拮抗
2.薬物依存性試験:耐性または依存性
3.薬物弁別試験
鎮痛薬
1.痛みの受容と痛覚伝導路
痛みとは,知覚神経の終末(自由神経終末)で感受され,痛みを起こす刺激(熱,化学的刺激など)で組織が障害されると,発痛物質ブラジキニンが遊離され,痛みを一次ニューロンに化学伝達する.
図:痛覚求心路と鎮痛薬の作用部位
2.痛みを除去する薬物
1)末梢でプロスタグランジンの生合成を抑制:解熱性鎮痛薬
2)一次ニューロンを遮断して痛みを除去:局所麻酔薬
3)視床を遮断して痛みを除去:解熱性鎮痛薬,麻薬性鎮痛薬
4)脊髄1次と2次ニューロンのシナプスの遮断:麻薬性鎮痛薬
5)大脳皮質知覚領を抑制:麻薬性鎮痛薬
図:各種痛み刺激の知覚神経への作用と疼痛反応
3.麻薬性鎮痛薬
1)モルヒネの薬理作用
a.
中枢抑制作用:鎮痛作用,陶酔作用,鎮咳作用,呼吸抑制作用(チェーンストークス呼吸)
b.
中枢興奮作用:催吐作用(クロルプロマジンで拮抗),縮瞳作用,脊髄反射亢進作用(マウスにストラウプ挙尾反応)
c. 末梢作用:止瀉作用(便秘),尿閉
図:モルヒネの中枢神経系に対する作用
2)モルヒネの副作用 ハ morphine pentazocine levomepromazine aspirin 分類 麻薬性 麻薬拮抗性(非麻薬) フェノチアジン系 解熱性 鎮痛効力(morophine
を1として) 1 1/3〜1/9 1/2 軽度 ブラジキニン発痛抑制 あり あり なし あり(末梢性) morphine 拮抗性 なし 軽度 なし なし 作用部位 中枢性 中枢性 中枢性 末梢性 耐性形成 あり ? ? なし 身体的依存性形成 あり 極めて軽度 なし なし 便秘作用 あり なし なし なし 呼吸抑制 著明 軽度 なし なし 起立性低血圧症 なし なし あり なし 外来での作用 可 可 不可 可
a.
急性中毒:呼吸中枢の麻痺(チェーンストークス呼吸)後,呼吸困難で死亡.
b.
耐性:中枢抑制作用にのみ生じ,止瀉作用には生じない.
c. 嘔吐
d. 精神的・身体的依存性:禁断症状
3)治療(解毒)
a.
急性中毒時には,人工呼吸とともにナロルフィン,レバロルファンを投与.
b.
中毒者には,ナロルフィンなどの投与は危険.
c. 治療:漸減療法,メサドン代替療法を併用
表:諸種鎮痛薬の薬理学的特徴
4.非ステロイド性抗炎症薬(解熱性鎮痛薬)
1)サリチル酸系薬物
a.
薬理作用:解熱作用,鎮痛作用,抗炎症・抗リウマチ作用(プロスタグランジン生合成阻害),尿酸排泄作用,血小板凝集阻害作用
b. 副作用:胃障害,めまい,耳鳴り
2)ピラゾロン系薬物
a.
薬理作用:解熱作用,鎮痛作用,抗炎症・抗リウマチ作用(プロスタグランジン生合成阻害)
b. 副作用:顆粒白血球減少症
図:プロスタグランジンおよび関連化合物の生合成(アラキドン酸カスケード)
5.内因性オピオイドペプチド類
α-, β-neo-endorphin, β-, γ-endorphin,dynorphin A,
B
endomorphin, Met-, Leu-enkephalin など
表:オピオイド受容体のサブタイプとその機能
局所麻酔薬
1.局所麻酔薬の適用法
1)表面麻酔 2)浸潤麻酔 3)伝導(伝達)麻酔 4)脊椎麻酔
図:痛覚求心路と鎮痛薬の作用部位
2.局所麻酔薬の作用機序
1)組織浸透性
2)Na+, K+
の透過性抑制
局所麻酔薬を与えると神経線維の膜は安定化し活動電位は発生しにくくなる.膜の安定化とは,Naイオンや
Kイオンの膜透過性を減少することである.活動電位の発生は Na
イオンが細胞内へ一挙に流入することによって生じ,再分極は
Kイオンが細胞内から外へ流出することによって生じる.この一連のイオンの流れによって活動電位が生じる訳であるが,局所麻酔薬は非特異的にイオンの膜透過性を減少させる.
Na イオンの透過性を特異的に抑制:テトロドトキシン(フグ毒)
K イオンの透過性を特異的に抑制:テトラエチルアンモニウム
Ca イオンの透過性を特異的に抑制:Mg イオン,ベラパミルなど
Cl イオンの透過性を特異的に抑制:ピクロトキシン
3.局所麻酔薬(コカイン,プロカイン,ジブカイン)の作用の比較
筋弛緩薬
1.筋弛緩を起こす薬物
1)Na+
の透過性抑制:テトロドトキシン(フグ毒)
2)シナプス小胞からの ACh
遊離の抑制:ボツリヌス毒,プロカイン,Mg2+,
アミノ配糖体系抗生物質(SM,
KM)
3)競合的遮断薬:d-ツボクラリン,ガラミン
非競合的遮断薬:スキサメトニウム,デカメトニウム(C10)
4)ACh の合成阻害剤:ヘミコリニウム
3, 4)が末梢性筋弛緩薬
2.筋弛緩薬の作用機序
図:
神経筋接合部での筋弛緩薬の作用機序
3.ツボクラリンとスキサメトニウムの作用様式の比較
図:
神経筋接合部遮断薬の作用様式の比較
循環器系の薬理
図:八木式心臓標本の作成手順
1.腹面より心臓を露出し,胸骨を大きく切り取る.
2.(a)左大動脈を二重結紮後,切断. (b)の方向に倒すと3の形になる.
3.(a)左前大静脈を結紮後,切断. (b)の方向に倒すと4の形になる.
4.(a)右前大静脈を結紮後,切断. (b)の方向に倒すと5の形になる.
5.(a)肺静脈を2本まとめて結紮して切る .(b)の方向に心室を持ち上げると6の形になる.
6.2本の肝静脈を確かめ,これを結紮して切断する.他の1本の後大静脈を確かめて,糸を
通しておく.
7.後大静脈に円筒状カニューレを通して固定した後,右大動脈を切り,しばらく
Ringer 液
を通した後,ステッキ状カニューレをつける.
8.完成図
図:八木式によるカエル摘出心臓の実験例
β作用の発現機構
エピネフリンの心機能亢進作用,血糖上昇(解糖)や脂肪分解などの物質代謝作用におよぼす影響は,以下のようなカスケードによって起こる.
アデニレートシクラーゼの活性化 → サイクリックAMP
の増加
→ プロテインキナーゼの活性化
図:β作用の発現機構
血圧
・血圧は,主に心拍数,心収縮力(1回拍出量)および末梢血管抵抗(血管の収縮により↑,弛緩により↓)によって決まる.
・血圧を調節する中枢は,視床下部および延髄の血管運動中枢にある.右図の他に,副腎から遊離されるアドレナリン,腎臓でのアンギオテンシン
II,アルドステロンなどが血圧の調節に関与している.また,利尿薬によっても,血圧は下がる.ストレスなど,精神的なものには,抗不安薬が使われる.
図:
ヒトの循環系に対するノルエピネフリン,エピネフリン,イソプ
レナリン静脈注射の効果 (Goodman and Gilman,
1996)
図:
イヌの循環系に対するアセチルコリンの作用
低用量の ACh をイヌに静注すると血圧が下降するが,この作用は atropine で遮断される.一方,大量の ACh を投与すると,血圧が上昇し,その作用は,節遮断薬によって消失する.
図:
高血圧症に用いる薬物の作用点