エピネフリン生合成酵素の活性部位アミノ酸残基

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名城大学薬学部 生体機能分析学研究室 

金 田 典 雄

【目的】エピネフリン生合成酵素(フェニルエタノールアミンN-メチル転移酵素、PNMT:EC2.1.1.28)は、カテコールアミン合成経路における最後の段階であるノルエピネフリン(ノルアドレナリン、 NA)からエピネフリン(アドレナリン、 AD)の生合成を触媒する酵素で、S-アデノシルメチオニン(SAM)をメチル基供与体としている。PNMTは主に副腎髄質に存在するが、脳のAD 神経にも特異的に存在し、血圧調節や神経内分泌機能に重要な役割をしていると考えられており、その活性部位の構造は選択的で強力な阻害剤を開発する上で極めて重要である。これまでに化学修飾試薬を用いた研究により、本酵素活性にはCys 残基が必須であると考えられている。ヒトPNMTにはCys 残基は6個(48、60、91、131、139および183番)存在するが、活性発現に必須なCys残基ならびにその他のアミノ酸残基は明らかにされていない。そこで、これらをSer残基に変換した変異型 PNMT(それぞれC48S、C60S、C91S、C131S、C139S、C183Sと略す)を作成し、酵素活性に及ぼす影響を検討した。

【方法】ヒトPNMTcDNA を鋳型とし、PCR法により各変異型cDNA を作製した。変異の導入はDNA シークエンシングにより確認した。野生型および変異型 PNMTcDNA を発現ベクターpKK223-3に組み込み、大腸菌(JM109株)に導入した。 IPTGにより発現を誘導し、超音波処理により菌体を破砕した後、超遠心し、得られた可溶性画分を酵素溶液とした。酵素活性はHPLC/電気化学検出器により測定した。

【結果】SDS-PAGE法ならびにウェスタンブロット法により、野生型およびすべての変異型PNMTにおいて、ほぼ同程度のPNMTタンパクが発現していることが確認された。野生型 PNMTのNA に対するKm は18.4μMであった。一方、変異型 PNMT C48S、C60S、C91S、C131S、C139SのKm は16〜20μMを示し、野生型とほぼ同じであった。Vmax は野生型PNMTでは、147 nmol/h/mg protein であり、変異型 PNMT C48S、C60S、C91S、C131S、C139Sでは140〜150 nmol/h/mg protein と野生型とほぼ同じ値を示した。これに対し、C183Sでは、Kmは110μMとなり、野生型の約6倍大きな値を示した。また、Vmax は野生型の2.7%に減少した。SAM に対する速度パラメーターにおいても、同様の結果が得られ、野生型および変異型PNMT C48S、C60S、C91S、C131S、C139SのKm は15〜27μMであったのに対し、変異型PNMT C183Sでは、Km は118μMとなり、野生型の約6倍に増加した。Vmax は野生型および変異型PNMT C48S、C60S、C91S、C131S、C139Sにおいて、140〜230 nmol/h/mg protein であるのに対し、C183Sでは野生型の2.6%に減少した。以上の結果より、Cys183は、PNMT活性に極めて重要であることが明らかとなった。