名城大学薬学部

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海外臨床薬学研修の報告書(榎島 文香)

名城大学薬学部 医療薬学科 3年 榎島文香

平成18年8月21日~9月1日の約2週間、例年通り南カリフォルニア大学(USC)で海外臨床薬学研修が行われた。今年は今までと違い、学部生のみで研修が行われることになり特に知識不足という面において大きな不安もあった。研修に参加した私たち6人は、学部生という立場で学べること、“アメリカの薬剤師の仕事を見て、薬剤師が臨床においてどのような仕事ができるのか考える”ということを目標に定め、研修をスタートした。

研修内容は5日間のクラークシップと2日間の講義を含むものであった。クラークシップでは私たちが2~3人のグループに分かれ、USCの4年生の医療実習に同行していくつかの病院や薬局を見て回った。講義では、始めにアメリカの医療現場における個人情報保護法とも言えるHIPAAについての指導を受け、他にケーススタディを行い、アメリカの薬学部の教育制度についても学んだ。

私が研修に行った施設のひとつに、外来患者を扱うクリニックがあった。このクリニックに来る患者は低所得者層が中心で、このためメキシコ系の患者が多く、問診はスペイン語で行われることも多かった。

このクリニックで扱う疾患は、主に糖尿病、高血圧といった生活習慣病であったが、ここで働く薬剤師は、まず患者が来る前に一人ひとりの患者について、SOAP形式で書かれたカルテを見ながら治療方針を検討していた。そのカルテは医師が作成したものとは別に、薬剤師が単独で作成したものだという。問診を予約していた患者が来院すると、Pharmacy Roomという個室で一人の患者につき30分程度の服薬指導や生活指導を行っていた。個室にはパソコンや血圧測定器具が設置されており、このとき薬剤師は患者の血圧、体重の測定やTC、HDL、LDLなどの検査値の確認をして患者の経過観察をしながら、自らの手で処方箋を書いていた。

ここで働く薬剤師の様子は私には、まるで彼らが医者であるかのように見えた。患者に薬剤師が問診しているときも彼らはとても打ち解けている様子であったし、患者が毎日自己測定した血糖値のデータを薬剤師に見せ、それについて薬剤師が細かく説明し、患者もその説明を真剣に聞いていた。生活指導も毎日の食事、運動についてなど、生活に密着したもので、問診の内容からも日本にはないであろう患者と薬剤師の信頼関係の強さがうかがわれた。

また、医師とは先ほど述べたカルテをお互いに確認しあって連携をとっていた。医師と直接話す機会も多いそうだ。私たちが薬剤師の部屋にいる間、偶然医師が訪ねてきたのだが、薬剤師と話している様子はとても友好的で、医師と薬剤師が対等な立場にあることが読み取られた。

もちろん、クリニック内の薬局には調剤を主な業務としている薬剤師もいるそうだが、レジデントを終えた薬剤師はその知識を活かして医師や患者と共に治病気の治療に関わっていた。

このクリニックをはじめとする、アメリカの薬剤師の仕事、地位、仕事への姿勢はまさに私が理想とするものであった。私がアメリカの薬剤師の仕事を羨ましがっていて何度も言われたことは、日本の薬剤師にも同じことができるはずだ、ということである。アメリカの薬剤師も50年程前まではその仕事には多くの制限があったそうである。アメリカの薬剤師たちはAPHAなどの薬剤師団体を結成し、“患者のために”薬剤師ができることがもっとたくさんあるのだということを政府に対して主張し、現在のような権利を獲得したそうだ。

この話を聞いて、日本の薬剤師と立場はもっと変わっていくべきである、という私の考えはさらに強くなった。確かにアメリカではテクニシャンが存在するため、薬剤師の仕事が日本と大きく変わってくるのは当然である。それを考慮に入れたとしても、やはり現在の日本の薬剤師の活動の幅は狭すぎるのではないだろうか。私は薬剤師、薬学部生の立場から見た薬剤師の仕事をあまり知らないが、自分が患者の立場に立ったときに薬剤師を頼ろうという意識があまりわいてこないことがその証拠になるだろう。私は、アメリカのクリニックでの患者さんがそうであったように、日本でも患者さんが薬剤師を認識して信頼できるようになればいいと考える。そのためには、薬剤師にできること、薬剤師にしかできないことを明らかにしていかなければならない。もちろん、調剤も薬剤師に限られた大切な業務であるが、自分の処方した薬が正しく服用されているのか、相互作用や副作用は起きていないかなど、その薬に対して最後まで責任を持って見守ること、それが薬剤師のやるべきことであり、“患者のために”薬剤師ができることではないか。そして、そのような業務を行うにあたって、自ずと薬剤師の業務の拡大ということが必要になってくるのだろう。

今年度から日本の薬学部が6年制となった。私はこのことは社会的に薬剤師という職業が注目されている証拠であり、薬剤師の仕事内容を見直すきっかけになると考えている。薬剤師という職業が注目されている今、薬剤師は“患者のために”自分たちにできることを明らかにしなければならない。

今回USCに研修に行けたことで、私は日本の薬剤師が持つ可能性に気付くことができた。日本の薬剤師はアメリカの真似をするのではなく、これから新たな地位を築いていけるのだと思う。日本の薬剤師の仕事や立場をほとんど知らない状態で研修に行ってしまったことが心残りだが、それでもこの研修で私が得たものは大きかった。臨床研修はもちろん、異文化に触れるという意味でも、めったにできないとても貴重な経験ができた。このような素晴らしい経験をする機会を与えてくださった方々、私たちに親切にしてくださったUSCの方々に深く感謝する。

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