
2.本取組の特色
(1)よりスキルアップした臨床薬学教育
大学院臨床技能コースの特色は、学部教育における「医療倫理学」、「薬物治療学」、「臨床医学関連科目」、「医薬品情報学」等の習得を基礎として、本格的な薬物治療への参画を目指した臨床薬剤師を養成することにある。その到達目標は、患者の病態に対する医師の治療方針を理解し、適切な薬物療法を支援できる能力を習得することにある。図2に大学院「臨床技能コース」のカリキュラム内容とスケジュールを示し、図3に本教育システムの概念図を示した。このコースの特徴は、(ⅰ)特論科目「臨床薬物治療学」および「臨床薬物動態学」に問題基盤型学習であるPBLチュートリアル教育を導入したこと、(ⅱ)患者の「病(やまい)」に関する情報収集に重要な臨床コミュニケーションスキルの教育、(ⅲ)1年3ヶ月に及ぶ「臨床研修」を病院の医療現場で履修することにある。
図2 臨床や苦学選考臨床技能コースの
カリキュラム内容 スケジュール
図3 臨床技能コースにおける教育システム概念図
(ⅰ)実践的なPBLチュートリアル教育の特色
PBLは、臨床医学教育に効果的であることは良く知られている。医療現場では種々の症例に対する最新の薬物療法を実践的に理解しなければならず、将来体験するであろう種々のシナリオに対するバーチャルスキル学習として、極めて効果的である。
本教育法を臨床薬学教育に採り入れるために、2001年から本学部の臨床薬学担当教員は本格的な研修を開始し、国内外のPBL関連の研修会等に参加してきた。同時に、USCならびにサンフォード大学から教員を招き、PBL学習の実演と講演を開催している。特に、サンフォード大学からは、同大学の開発したPBL関連教材の提供を受けている。
(ⅱ)臨床コミュニケーションスキル教育と客観的臨床能力試験(OSCE)
写真1 喘息のモデル患者(SP)に使い方を説明してい
る院生(右側)とそのコミュニケーションを審査している
医学部・薬学部教員(手前の2人)
臨床コミュニケーションスキル教育では、「医療面接」を通して、薬剤師が現場で直面する種々の技能を模擬体験的に学ぶ。臨床で最も重要なことは、クライアントとしての患者への応対であり、適切な医療面接によって、患者の「病(やまい)」を理解することである。適切な医療面接法は、学生間のロールプレイを通して学び、その成果は、客観的臨床能力テスト(Objective Structured Clinical Examination;OSCE;オスキー)によって評価される。このオスキーでは、模擬患者を用いて、院生は医療面接の実演を行い、医学部教員、薬学部教員ならびに他大学教員による第三者評価が行われる。院生は、この試験をパスしなければ、臨床研修へ進むことができない(写真1参照)。
(ⅲ)医学部附属病院における臨床研修
本教育システムにおける「臨床研修」は、従来の調剤する場所(薬剤部)から、薬物療法が行われる場所(病棟)へその研修場所が移行したことが大きな特徴である。藤田保健衛生大学病院薬剤部における実務研修(6週間)と看護部における看護体験(1週間)を経たのち、下記の8診療科(センター)
- 一般内科
- 呼吸器内科
- 循環器内科
- 血液・化学療法科
- 代謝・内分泌科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 救命救急センター
において、患者を実際に受けもつ、「臨床研修」を受ける。研修指導責任者は医師であり、研修医らとともに臨床指導を受け、実際の薬物療法を学ぶ。さらに病院 薬剤師(薬剤部長)及び薬学部教員を加えた三者協力体制のもとに、「医療チームの一員」として、臨床の場における薬剤師の役割を学ぶ(写真2、3参照)。診療科の部長(教授)は薬学部の客員教授を兼務しており、院生の「臨床研修」に薬学部教員とともに責任を担っている。
「臨床研修」では1年3ヶ月間を4診療科の病棟・外来において研修医らと共に医師の指導を受ける。病棟活動における院生の典型的な1日の学習行動を表1に示す。
他のほとんどの私立薬科大学・薬学部39校(新設を含める)では、このような本格的な臨床薬学教育はまだ行われていないのが現状であり、今後の発展が求められている。
写真2 回診に同行する大学院生(左側)
写真3 患者面接の様子
| 8:30-9:00 | モーニングカンファランス: 朝の研修医による患者症例報告会に参加し、新たに入院した患者の診断・治療プロセスを理解する。 |
|---|---|
| 9:00-10:00 | 看護師申送り参加: 看護師の勤務交替申送りに参加して、夜間の患者の状態・症状の変化を確認する。 |
| 10:00-12:00 | 回診同行: 主治医の回診に同行して、診断のプロセスと患者を理解する。 |
| 12:00-13:00 | 休憩(食事・記録の整理) |
| 13:00-14:00 | 患者諸検査等の理解: 薬物療法の結果を監視するための諸データを理解するため、患者の受ける検査に参加(見学)する。 |
| 14:00-15:00 | 患者面接: 担当患者と面接して、薬物治療上の問題点(薬の効果・副作用など)をモニターする。 |
| 15:00-17:00 | 服薬指導: 患者に服用しているくすりを説明し、患者自身が薬物療法に参加することの重要性を説明する。 |
| 17:00-18:00 | 診療録記載: 自ら得た患者情報及び医薬品情報を診療録(カルテ)へ記載する。 |
| 18:00-19:00 | 症例検討会参加: 医局での症例を中心とした勉強会へ参加、医師の患者診断、治療計画・目標設定を理解し、必要に応じて医師へ患者情報・医薬品情報を提供する。 |
(2)「医・薬連携大学院」と「サテライトセミナー室」
院生の臨床研修の場として、自前の医療施設(臨床研修病院)を持たない名城大学は、藤田保健衛生大学医学部と連携大学院協定を結んだ。臨床技能コースの院生は、病棟(診療科)を活動の中心として、医師・患者・看護師を軸とした医療体系と、臨床における薬物治療の実際、処方設計を学び、これらに対する薬剤師の役割と責任を学ぶ。名城大学薬学部「サテライトセミナー室」は、連携大学院教育の活動拠点として、全国で初めて学外の医学部内に設けられた。院生は、医学部教員・薬学部教員とともに、勉強会、症例検討会、セミナー、資料調査、自習など多目的に利用している(写真4,5参照)。医学部との連携を円滑に進めるため、サテライトセミナー室には薬学部教員が常駐している。従来、研究室に活動の中心があった薬学部教員にとって、このサテライトセミナー室は臨床医学に接し、その経験を学部教育に生かす絶好の場ともなっている。
写真4サテライトセミナー室における症例検討会にて報告を行う大学院生と、報告に耳を傾ける参加者
写真5サテライトセミナー室における症例を検討する大学院生、医学部・薬学部教員と招聘教授
(3) 海外臨床研修
名城大学では、1975年以来、毎年この海外臨床研修を続け、既に、300名近い学生が、米国における先進的な臨床薬剤師の活動に触れている。約2週間の海外研修で、臨床薬学専攻の学生は、(a)米国の薬学部6年生の臨床研修への参加、(b)患者とのコミュニケーションの実務研修、(c)臨床薬学関連講義・セミナーへの参加、(d)地域薬局・ドラッグストアの見学等を通して、医療チームにおける薬剤師の役割を学ぶ。
(4) 臨床薬学教育を支援する「医薬情報センター」
薬剤師の臨床における最も大きな役割は医薬品の適正使用ならびに副作用の防止である。医薬品情報は、薬剤師が臨床活動を行う上で不可欠なものである。名城大学は、薬学専攻科開設当初から全国に先駆けて、臨床活動を支援する「医薬情報センター」を薬学部内に設置し、管理運営費についても全面的に支援している。




