第3回 薬物有害反応と薬害事件


IV 薬物有害反応
IV-1.薬物有害反応(adverse reaction)の定義
 「常用量の薬物の投与により、患者に起こるすべての望ましくない効果あるいは有害な効果」
  ・副作用とは同一の概念ではない。 
  ・軽微なもの(グレード1)、中程度(グレード2)、重篤なもの(グレード3)


IV-2.発生機序による分類 (a〜cに大別)
  a.中毒:一定量以上の用量ならば、だれにでも起こりうる有害反応
   1)薬物特異的有害反応 --- 薬物それ自体の薬理作用に起因する有害反応
   2)宿主特異的有害反応 --- 性、年齢、疾患(基礎疾患、合併症)、素因または遺伝
      高齢者(薬物代謝や排泄能が低下)、幼小児・未熟児(薬物代謝能が未発達)
      先天的、遺伝的にある種の薬物代謝酵素が欠損
  b.アレルギー(あるいはアレルギー様反応) 表 IV-1 症状と分類
      「ある特定の薬物あるいはその構造類似物質によって前もって感作(免疫)された個体が、免疫機序に基づいて起こす有害反応」
     ・薬物は、免疫学的にはハプテンとして作用し、それが体内の血清タンパクなどの宿主タンパクと結合して複合抗原(アレルゲン性免疫原)となり、特有の反応が引き起こされる。
   1)発生機序
    a)I 型(アナフィラキシー型):即時的過敏反応
      ・薬物に特異的な抗体(主として IgE)が肥満細胞に付着しており、これに抗原が結合すると、ヒスタミン、ロイコトリエン類、プロスタグランジン類などの様々な化学伝達物質が放出され、血管拡張、浮腫、炎症反応などを引き起こす。
    b)II 型(細胞障害型)
      ・抗体IgGとIgM によって生じ、通常その補体活性能に依存。
      ・抗体は標的細胞上の表面抗原あるいは細胞に特異的に付着した抗原と結合し、さらに補体が結合することにより標的細胞の障害(溶解)を起こす。
      ・全身性エリテマトーデス(ヒドララジン)、溶血性貧血(ペニシリン)
    c)III 型(免疫複合型、アルザス型)
      ・薬物と対応する抗体(主にIgG)よりなる補体結合性の免疫複合体が血管内皮に沈着し、血清病と呼ばれる破壊的な炎症反応が生じる。
      ・Stevens-Johnson 症候群(スルホンアミド類)
    d)IV 型(細胞仲介型):遅発(遅延)性過敏反応
      ・感作されたT-リンパ球とマクロファージによる。
      ・接触性皮膚炎(局所用の抗菌薬、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬)
   2)臨床症状
      たとえ症状が同じであっても、その症状の機序や原因薬物が同一であるとは限らない。
  c.二次的有害反応
   1)ビタミン欠乏症:ニコチン酸欠乏症(ペラグラ)
      イソニアジドがVB6 に対する拮抗作用と同時にニコチン酸と競合作用を示す。
   2)菌交代症:偽膜性大腸炎(リンコマイシン、クリンダマイシン、セファロリジン等)
      ・通常では、真菌や緑膿菌のような病原性を持つが繁殖力の弱い菌が、常在菌によって増殖を抑えられているが、抗菌薬により正常常在菌が死んでしまうため。
  d.催奇形性作用 --- 抗癌薬、免疫抑制薬、一部の抗ヒスタミン薬
  e.発癌作用


IV-3.臓器別有害反応と薬物中毒
  a.中枢神経  
   1)発生機序:大量投与による中毒症状、薬物の離脱症状、特異的薬理作用による症状
   2)中枢神経症状:精神症状、神経症状
   3)中枢神経障害をきたす薬物  表 IV-3 副作用を起こしやすい薬物
  b.末梢神経・筋肉
   1)末梢神経障害:発生機序、末梢神経障害をきたす薬物
   2)筋肉障害:薬物性ミオパチーの発生機序、神経・筋接合部伝達阻害の機序
  c.呼吸器:間質性肺炎(ブレオマイシン、シクロホスファミド、小柴胡湯エキス製剤)
  d.循環器
   1)不整脈:心室性期外収縮(ジギタリス)、不整脈(抗不整脈薬、レボドパ)
   2)心不全:β遮断薬は、心筋収縮力が低下している場合は禁忌
   3)心筋症と心筋虚血:拡張型(うっ血性)心筋症(リチウム、ダウノルビシン、ドキソルビシン)
  e.腎臓:薬物性腎障害(⇒急性腎不全に)(アミノ配糖体系、セフェム系抗菌薬、NSAIDs)、ペニシラミン、シクロスポリン)
  f.消化管:口内炎、消化管粘膜障害、潰瘍など(NSAID類)、菌交代現象(広域抗菌薬、抗癌薬)、出血性大腸炎、偽膜性腸炎(合成ペニシリン、マクロライド系、セフェム系抗菌薬)
  g.肝臓
   1)中毒性肝障害:頻度・程度は、用量依存的
   2)薬物アレルギー性肝障害:投与量に関係なく、微量投与でも発症することあり。
         同一薬物でも、種々の組織像を示し、潜伏期間が不定(抗菌薬、NSAID)
  h.造血組織:無顆粒球症(抗癌薬、抗白血病薬)、骨髄幹細胞障害(抗癌薬、抗白血病薬)、血小板機能低下(抗菌薬、抗てんかん薬、鎮痛薬)


IV-4.トキシコキネティックス





代表的な副作用とその原因物質

 1.肝毒性 1)肝実質性(肝細胞性):抗癌剤,抗生物質,向精神薬
       2)胆汁うっ滞性:男性ホルモン,蛋白同化ホルモン,経口避妊薬
 2.腎障害:抗生物質(GM, KM等のアミノグリコシド系が特に強い)
 3.消化性障害:鎮痛剤(アスピリン,インドメタシン)の消化性潰瘍
 4.造血器障害:抗生物質クロラムフェニコールの再生不良性貧血
         抗甲状腺薬プロピルチオウラシルの白血球減少症
 5.内分泌障害:副腎皮質ステロイド連用による副腎皮質委縮
         男性ホルモン連用による性腺委縮
 6.神経・精神障害:血圧下降剤レセルピンのうつ病
           抗結核剤イソニアジドの神経炎
 7.代謝障害:利尿剤による耐糖機能の低下(糖尿病傾向と高尿酸血症)


有害反応の発現頻度:5%以上、0.1%以上5%未満、0.1%未満、頻度不明


有害反応への対応
 1)有害反応の予防 
   @ 既往歴、A 乱用の防止、B 肝臓、腎臓、血液疾患の患者には特に注意、C 併用している薬剤との相互作用に注意、D 薬剤の作用や有害作用に対する情報の収集に努める
 2)早期発見
 3)原因薬剤の即時中止
 4)対症療法

副作用モニター制度 ⇒ 医薬品等安全性情報報告制度(平成9年7月〜)
市販医薬品に関する定期的安全性最新報告

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医薬品で引き起こされた主な有害反応(薬害)
  
医薬品
有害作用
開発時の薬効
その他

ペニシリン

ショック死

サリドマイド

催奇形

睡眠薬として開発・販売

アンプル入りかぜ薬

ショック死

クロロキン

視力障害

抗マラリア薬

クロロキン網膜症

クロラムフェニコール

血液障害

X線造影剤

ショック死

テトラサイクリン

有色歯

小柴胡湯

間質性肺炎

ソリブジン

血液障害

帯状疱疹治療薬

フルオロウラシル系抗癌剤との薬物間相互作用

イリノテカン

骨髄障害

DNA合成阻害作用を有する抗悪性腫瘍剤

キノホルム

スモン(SMON)

整腸剤

subacute myelo-optico-neuropathy

アスピリン

Reye 症候群

トリアゾラム

記憶障害

非加熱血液製剤

AIDS, C型肝炎?

ヒト乾燥硬膜、ライオデュラ

CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)

脳外科手術により移植された脳硬膜

オキシトシン

子宮破裂・緊急帝王切開

陣痛促進

臭化水素酸フェノテロール

喘息の噴霧式吸入剤

喘息治療用の定量吸入剤(MDI)の中でもβ1 (心臓刺激)がかなり強く作用持続が長い

トログリタゾン

劇症肝炎

糖尿病治療薬