老年期痴呆

痴呆を起こす主な原因疾患
 

1.脳血管性痴呆(脳血管障害に基づく痴呆の総称)
2.アルツハイマー型痴呆(広義のアルツハイマー病)
3.非アルツハイマー型変性痴呆(アルツハイマー型痴呆以外の変性神経疾患による痴呆)
   び慢性レビー小体病、パーキンソン病、進行性核上性麻庫、ピック病、脊髄小脳変性症(一部)、
   運動ニューロン疾患を伴う初老期痴呆、ハンチントン舞踏病、辺縁系神経原線維痴呆など
4.脳外科的疾患
  正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳膿瘍など
5.感染症脳炎、髄膜炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、エイズ脳症、神経梅毒など
6.内分泌性・代謝性・中毒性疾患
  内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、アジソン病など)
  代謝性疾患
   欠乏性疾患(ビタミンBl2欠乏症、ビタミンBl欠乏症、ペラグラなど)
   他臓器疾患(肝性脳症、肺性脳症、腎性脳症、低血糖症など)
  中毒性疾患(各種薬物、アルコール、金属、有機化合物中毒など)
7.その他
  シェーグレン症候群、神経ペーチェット病、多発性硬化症など


               (平井俊策:アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆、p.17、1994)

アルツハイマー病・アルツハイマー型痴呆

 記憶、理解、判断などの精神機能をつかさどる脳の部分が何らかの原因で侵されて起こる疾患で、進行性痴呆を主症状とする。
 定義上は65歳以前に発症したものをアルツハイマー病、65歳以降に発症したものをアルツハイマー型痴呆と区別するが、最近は区別せずに呼ばれることが多い。老年期痴呆の約30-40%を占めている。
 

原因

・原因不明(加齢、頭部損傷などが関与しているといわれている)
・病理的所見:タウたん白質含有の神経原線維変化(脳灰白質の神経細胞内に微細線維(主成分:タウたん白質)が蓄積されて形成される。)と老人斑((主成分:β-アミロイドたん白質)神経細胞間のアミロイド、病変した神経細胞や軸索、樹状突起の残骸、脳細胞(ミクロクリア、アストロクリア)により形成)の神経細胞外への出現
・脳のびまん性萎縮が見られる。(通常1,400 g前後の脳重量が発症10年後には800 g以下)

症状

・何年にもわたり徐々に進行する。
・初期(1〜3年):記臆障害(物忘れ、最近の事柄に対する記憶障害)、健忘失語、うつ状態
・中期(2〜10年):記憶障害、着衣失行、人物誤認、無関心、無気力、言語障害、落着きをなくす、徘徊後期(6〜12年):高度の知的機能障害、運動障害(寝たきり)、失禁

治療法

・原因が不明なため、根本的治療法は確立していない。
・薬物治療:アルツハイマー病患者にはコリンアセチラーゼ活性の低下がみられるため、アセチルコリンの代謝改善薬(ドネペジル)の投与を行うことがある。しかし、一般には脳循環改善薬を投与する方法がとられる。
※その他に、介護と生活指導、リハビリテーション、在宅医療など幅広いケアを必要とする。


その他の老年痴呆:脳血管性痴呆(原因:高血圧、糖尿病、心疾患などによる脳底部の動脈硬化)
         ・老年痴呆の40-50%を占める。
         ・症状が階段状に悪化する特徴をもつ。
          (アルツハイマー病と異なり人格は保たれ、病識はある)
         ・治療は脳梗塞の治療に準じる。 

アルツハイマー病の診断基準の要点
 

1.痴呆がある

Yes

2.40歳から90歳の間の発症

Yes

3.痴呆症状は徐々に発現し、緩徐に不可逆的に進行する

Yes

4.病歴および諸検査所見からアルツハイマー病以外の痴呆の原因となる全身疾患
  や脳疾患が否定される

Yes

5.以下の場合には除外する
  イ.急激な卒中様発症
  ロ.片麻痺、感覚消失、視野欠損、協調運動障害などが初期から認められる
  ハ.ごく初期から痙攣や歩行障害がある


No
No
No


  (NINCDS-ADRDAの診断基準の要点をYes、Noの簡単な表にまとめたもの.
   1〜4がいずれもYesで、5がいずれもNoの場合にアルッハイマー病が疑われる)

脳血管性痴呆とアルツハイマー病の比較
 

脳血管性痴呆

アルツハイマー病

発症様式

急性発症ないし脳卒中の発症と時間的に関連して発症

徐々に発症

基礎疾患

高血圧、糖尿病、心疾患

とくになし

脳卒中の既往

8割に明らかな脳卒中発作(+)

なし

経過

動揺性、段階的・階段状に悪化

進行性悪化

痴呆の性質

まだら痴呆

全般性痴呆

病識

末期まで残る

早期に消失

人格

比較的よく保たれる

早期より崩壊する、人格崩壊著明

随伴症状

神経学的局所症候(+)
感情失禁、夜間せん妄を伴いやすい

神経学的局所症侯(一)
徘徊、多動、濫集傾向を伴いやすい

補助検査

X線CT、MRIで器質的脳血管病変(+)
脳血流低下が痴呆の出現に先行(数年前)
PETで側頭葉の脳代謝低下をみることが多い
SPECTで脳血流低下(特に前頭葉)がみられる 
高血圧などの危険因子、他の動脈硬化所見の合併

X線CT、MRIで脳萎縮、脳室拡大(+)
痴呆の出現と脳血流低下がほぼ同時
PETで側頭葉、頭頂葉の脳代謝低下がみられる
SPECTで側頭葉、頭頂葉の脳血流低下がみられる
診断マーカー陽性


                 (平井俊策:アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆、p98、1994)