Dual Color ELISPOT法の開発と本法を用いた実験的病態に伴うサイトカイン産生細胞の分布変化に関する研究

<要 旨>

 サイトカインは免疫系、造血機構、神経系、発生など生命現象の様々な場面で重要な働きをする生理活性タンパク質の総称である。そして、多くのサイトカインが直接的あるいは間接的に様々な疾患の発症、進展に関与することが明らかになってきた。ヘルパーT細胞はサイトカイン産生細胞として生体の免疫反応の制御に極めて重要な役割を果たしている。これらヘルパーT細胞群はそれぞれ産生するサイトカインの種類によって2つの亜集団に分類できる。すなわち、インターロイキン(IL) -2やインターフェロン(IFN) -g を分泌するTh1細胞と、IL-4、-5、-6等を産生するTh2細胞の2群である。その後、さらに両方のタイプのサイトカイン類を同時に分泌するTh0細胞が存在することも明らかとなった。近年、これら亜集団のうち、どの亜集団がより活性化し、サイトカイン類を産生するのか、すなわち複数のサイトカイン間の分布(バランス)がどう変わるかによって自己免疫、感染防御、アレルギー等の免疫反応の特性が決定されることがわかってきた。従って、免疫反応や病態の解析には、生体内のサイトカインの種類と量の分布を効果的に解析する必要があり、その方法の開発は極めて重要である。従来、サイトカインに関する解析は血液・尿等の体液中に含まれるサイトカイン量を定量する方法が多く採用されてきた。しかし、サイトカインはホルモン類と異なり、それぞれ産生された局所での機能が重要であることから、細胞レベルでのサイトカインの解析が、より生体内の状況を反映するものと考えられる。

 本研究は複数種のサイトカイン分泌細胞(ヘルパーT細胞)の分布状態を同時に簡便かつ特異的に細胞レベルで解析を可能とする方法、すなわち、Dual Color Enzyme-linked Immunospot(ELISPOT)法を開発することを目的として行った研究をまとめたものである。

 第一章ではDual Color ELISPOT法の測定原理及び方法の確立について述べた。従来細胞レベルで特異的抗体やサイトカイン産生細胞の解析を可能とするELISPOT法があったが、このELISPOT法の原理を基本とし、これを発展応用し、細胞レベルで複数種のサイトカイン産生細胞を同時分別定量を可能とする方法を開発した。ここで開発した方法は3種のヘルパーT細胞亜集団の分布状態を細胞レベルで、簡便かつ特異的に解析することができると考えられた。

 第二章では第一章で開発したDual Color ELISPOT法の有用性を証明するため、以下の3項目の課題に応用した。(1)従来より免疫応答の特質には遺伝的背景が影響を及ぼす可能性が推察されている。従って、近交系マウスの系統によるサイトカイン産生細胞の体内分布の相違を本法を用いて解析した。その結果、遺伝的なサイトカイン産生の違いを検出し得た。(2)慢性関節リウマチ患者の関節炎症部位にはCD4陽性T細胞の浸潤が多く見られるため、関節炎の発症にヘルパーT細胞が重要な役割を果たしていると考えられている。そこでヒト慢性関節リウマチの優れた実験的病態モデルであるコラーゲン誘発関節炎モデルマウスを用い、関節炎発症に伴い、細胞レベルでサイトカインバランスがどのように変動するかを本法により解析した。その結果、関節炎発症に伴い、その個体のサイトカインバランスはTh1型サイトカイン優位な状態からTh2型サイトカイン優位な状態に変動することが判明した。(3)近年、注目を浴びている環境破壊物質として無機物質がある。その一例としてマンガン(Mn)をとりあげた。Mnは動物にとって必須微量元素とされているが、過剰な曝露を受けた場合、生体機能が侵されることが知られている。Mn過剰曝露による毒性発現機構を解明するため、Mn過剰曝露した動物生体内でのMn挙動を生化学的および形態学的に解析した。その結果、過剰なMnは膵臓細胞のリソソームに蓄積すると同時にリソソームの新生を誘導することが判明した。これらの結果から、Mn過剰曝露を受けた個体は免疫系に変動を生じている可能性が考えられた。これまでMn過剰曝露が免疫系に及ぼす影響に関しては知られていないことから本法を利用し、Mn過剰曝露によるサイトカイン産生の変動を解析した。その結果、Mn過剰曝露はサイトカインバランスに重大な影響を及ぼさないことが判明した。以上3つの課題にDual Color ELISPOT法を応用し、その有用性を示した。

 本研究ではより生理的に意義のある細胞レベルでのサイトカイン産生の評価法を開発し、その有用性を示した。さらに将来の展望として、ヒトサイトカインに対するDual Color ELISPOT法を確立することにより、臨床においても疾患の診断、病態解析に有用な技術となりうると考えられる。


戻る