更新日:20050821

1)データベースの作成・研究
医薬情報管理による医薬品の安全性の確保をめざして、副作用と中毒に関する症例報告の独自のデータベース(CARPIS:Case reports of Adverse Reaction and Poisoning Information Services)の作成及び研究を行っている。本データベースは、国内で報告された副作用と中毒に関する症例報告を収集し,独自のデータベースとしたものである。1987年より作成を開始し、現在約20,000症例を収録している。原因となった薬の般名や商品名はもちろんのこと、副作用の症状や原疾患などからすぐに該当論文を検索し、参照することができる。 現在、本データベースの薬剤疫学への応用を進めるとともに、インターネットへの情報公開を行っている。



2)医薬品副作用情報データベースを利用した副作用危険因子の探索
 発生頻度の低い副作用の危険因子を見いだすには、母集団の大きなケースコントロール研究を行うことが、最も合理的な方法である。しかし、この方法はコストも多くかかり、期間も長期に及ぶため全ての副作用で実施することは難しい。そのことが希な副作用の危険因子を解明する上で大きな妨げになっている。我々は、18年にわたって副作用の症例報告を収集し、データベースCARPISを作成してきた。集積された副作用症例は、約32000症例となり、発現頻度の低い副作用も統計学的な検討ができる症例数が収録された。CARPISは副作用症例のリファンレンスデータベースとしてのみならず、ファクトデータベースであり、患者背景はもちろんのこと原因薬の構造などの情報も含まれている。そこで、CARPISを副作用症例のコホートデータベースとみなしたケースコントロール研究を用い、希な副作用の危険因子(患者背景、原因薬の特徴など)を探る方法論を考案した。この方法を種々の副作用に適応することによって、今まで全く知られていなかった中毒性表皮壊死壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)やスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)の危険因子を明らかにすることが可能となった。



3)医薬品副作用情報データベースを利用した副作用診断の試み
 在宅や薬局における患者対応の現場においては、患者とのやりとりや観察のみから副作用の可能性があるかどうかの判断、すなわち副作用診断を要求される。我々は今まで、自覚症状の評価方法として、感度と特異度に焦点をあて、ROC曲線を応用して5段階に数値化したものを利用していた。しかし、この方法ではその自覚症状が有った場合は、判断材料として利用できるが、その自覚症状が無かった場合には、何の情報も得ることができなかった。一般に、医師が問診や聴打診で行う理学診断では、その症状が有る場合はもちろん、無い場合にも除外診断の情報として利用されている。そこで、現在までの研究結果を基に、副作用症例報告に記載されている患者の自覚症状の発現頻度より感度と特異度に加え、尤度比を算出して統計学的に評価した。これにより、各自覚症状が、副作用を診断する上で、有力な手がかりになるかどうかを数値で表現することに成功した。これらの情報は、特に患者情報の少ない在宅や薬局における患者対応の場面では非常に大きな力を発揮すると考えられる。これは、薬剤師による副作用診断を行うためには非常に有用であり、薬剤師が副作用を早期に発見し、防止対策をとり、医療に貢献する上で大きな役割を果たすと考えられる。

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