植物資源から新規抗がん作用物質の発見と応用研究

  新規化合物の単離・構造決定と生物活性評価     更新日:2004.2.14.


研究概要

「モルヒネ」を始めとして,植物由来の有機化合物,あるいはそれらをシーズ分子として開発された化合物が,貴重な医薬品として使用されている例は数多く見られる.  ガンの化学治療薬に於いても,ツルニチニチソウの成分「ビンクリスチン」「ビンブラスチン」,太平洋イチイの成分「パクリタキセル」(タキソール)を初め,ポドフィロトキシンを化学修飾した「エトポシド」,カンプトテシンより化学誘導された化合物「イリノテカン」はその例である.  我々は,ここ数年来,種々の植物資源より,数々の新しいアルカロイド,クマリン,キサントンなどを単離し,それらの化学構造を明らかにしてきた. それらのうち,アクリドンおよびカルバゾール・アルカロイド類は,現在臨床試験段階にある抗ガン剤 「アムサクリン」や,医薬品としての開発が進められていた「エリプチシン」と同じ骨格構造を持つものである. 

    

本研究の目的は,植物資源に含まれる新しい化合物を探索し,その中から新しいガン抑制化合物を発見し,新薬開発のための一助とすることを目指すものである.

具体的には,

(1)遺伝資源の豊富な,また,多様な構造の成分を含む「カンキツ(柑橘),Citrus 属植物」について発ガン抑制成分の探索

(2)ミカン科 Murraya 属, Glycosmis 属,Clausena 属植物等から新しい成分の単離・構造研究

(3)更に発展して,オトギリソウ科,マメ科,アビセニア科植物のいくつかについても成分検索を行い,新しい化合物を単離・構造決定

なお,単離した化合物についての生物活性評価としては,以下の試験を実施.

(1)発ガンプロモーション抑制活性試験

(2)ガン細胞増殖抑制活性試験

(3)白血病細胞分化抑制活性試験

(4)NO 産生抑制活性試験


平成14〜16年度科学研究費「基盤研究(C)」補助金
研究課題:植物資源より,新たなガン抑制シーズ分子の探索研究 
研究代表者:古川 宏(名城大学・薬学部)
研究協力者:井藤 千裕(名城大学・薬学部),糸魚川 政孝(東海学園大学)

「研究実績報告書」抜粋
平成14年度研究実績概要

.先に,我々はオトギリソウ科Garcinia 属植物から,多数のキサントン類と共に,高等植物からは最初の例としてデプシドン骨格を持つ化合物を単離・構造決定し,報告した。今回,タイで採集した G. fusca およびパプアニューギニアで採集した G. assgu の樹皮について成分検索を行ない,単離した化合物について発がんプロモーション抑制活性試験(TPAによるEBV早期抗原誘導抑制活性試験)および抗酸化活性試験(DPPHラジカル消去活性試験)を実施した。
(1)G. fusca からは,新しいキサントン8種を単離,fuscaxanthone A 〜 Hと命名し,構造決定した。これらの化合物は,いずれもプレニル基,ゲラニル基,あるいはこれらに由来するピラン環構造を持っている。 これらに対する発がんプロモーション抑制活性試験の結果では,特に強い活性を示すものはなかった。
(2)G. assigu からは,2種の新しいポリプレニル化ベンゾフェノン類を単離,構造決定した。同時に単離した既知構造のベンゾフェノン類4種と共に発がんプロモーション抑制活性試験および抗酸化活性試験を実施した結果,共の特に強い活性は認められなかった。
.ミカン科植物から単離した17種のアクリドンアルカロイドについて,発がんプロモーション抑制活性試験を実施した結果,atalaphyllinine, severifoline, glycocitrine-IIなどに強い活性を認めた。また,マウス皮膚2段階発がん抑制活性試験の結果でも強い活性が認められ,これらは発がんプロモーション抑制試薬として有用であることを認めた。

平成15年度研究実績概要
(A) 新化合物の単離と構造研究:
1)オトギリソウ科植物 Calophyllum brasiliense の樹皮の成分検索を行い、3種の新しいクマリン類(brasimarins A, B, Cと命名)を単離し、2次元NMR (HMBC)法などにより構造を決定した。これらは、4位にフェニル基またはプロピル基をもつクマリンである。
2)マメ科植物 Dalbergia cultrata, D. nigrescens および D. olivariの樹皮より5種の新しいシンナミルフェノール類 (dalberatins A〜Eと命名)、および2種の新しいイソフラボノイド(olibergins A, Bと命名)を単離し構造を証明した。
(B) シンナミルフェノールおよび4置換クマリン類の発がんプロモーション抑制活性:
 スクリーニング法としては、Epstein-Barr virus (EBV) 潜在感染ヒトリンパ腫細胞(Raji 細胞)に発がん促進物質(プロモーター)として12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)を加えて、細胞表面にたんぱく質を発現させ、その発現量を抗原抗体反応(間接蛍光抗体法)により測定した。
活性の強さは、IC50 (mol ratio/32pmol TPA)値で表した。
dalberatin A=213, dalberatin B=303, dalberatin C=223, dalberatin E=209
brasimarin A=349, brasimarin B=342, brasimarin C=348
 シンナミルフェノール類は、いずれも、古くから発がんプロモーション抑制効果があるとされている化合物β-carotene(IC50=400)よりも、はるかに強い活性を示し、特にカテコール(1,2-dihydroxyphenyl) 構造を持つ dalberatin Eの強い活性が注目された。