糖尿病治療薬の開発
名城大学薬学部 病態生化学研究室
三 輪 一 智
わが国の糖尿病患者は690万人に達する。大部分(約95%)を占めるのは2型(インスリン非依存型)糖尿病であり、その根治療法はまだない。そこで、糖尿病合併症の治療法が一方では模索されている。
その1つとしてタンパク質のグリケーション(非酵素的糖化)を抑える化合物が有望視されている。糖尿病時には高血糖のためグリケーションが亢進し、それが合併症の成因の一部をなすと考えられているからである。グリケーション抑制薬の開発ではアミノグアニジンの研究が最も進んでおり、治験の第3段階を最近終え、間もなくその結果報告がなされるはずである。しかし、マウスに投与した私共の実験では臓器中のピリドキサールリン酸が有意に減少することがわかり、アミノグアニジンの使用には注意を要することが示唆された。
私共はアミノグアニジンとピリドキサールとのシッフ塩基(PL-AG)を合成し、そのグリケーション抑制薬としての可能性について検討したので報告する。
PL-AGをpH7.4、37℃でインキュベートすると加水分解されたが、6日間で数%とわずかなものであった。マンノース(グルコースよりグリケーションを起こしやすいのでその代わりに用いた)によるアルブミンのグリケーションはPL-AGにより用量依存的に抑制され(蛍光性物質生成量からの評価では、1 mMで27%、2 mMで51%の抑制;ELISA法での糖化最終産物量からの評価では、1 mMで50%、2 mMで74%の抑制)、その強さはアミノグアニジンによる抑制と同程度あるいはそれ以上であった。アミノグアニジンあるいはPL-AGを6週間投与(いずれも0.9 mmol/kg/day、経口投与)したマウスの肝臓および腎臓中にはアミノグアニジンとピリドキサールリン酸とのシッフ塩基が検出された。しかし、アミノグアニジン投与群では対照群に比べ肝臓ピリドキサールリン酸量の有意な減少が認められたのに対し、PL-AG投与群では対照群との間に有意差は認められなかった。腎臓ピリドキサールリン酸量、肝臓ピリドキサール量は3群間で有意差がなかった。また、腎臓ピリドキサール量は3群とも検出限界以下であり、測定できなかった。
結論として、PL-AGは、アミノグアニジンに劣らないグリケーション抑制作用を有し、アミノグアニジン投与時に見られる生体内ピリドキサールリン酸量の減少を起こさないことから、アミノグアニジンよりも有望なグリケーション抑制薬として期待できる。