油糧種子油粕に含有される抗酸化成分の探索
名古屋市立大学薬学部 薬用植物園研究実習施設
永 津 明 人
名城大学薬学部 医薬情報センター
榊 原 仁 作
【はじめに】 食品分野のみならず生体の抗酸化能を高めるという観点からも強力で安全な天然の抗酸化物質が求められ続けており、近年特にその傾向が顕著である。ところで、油粕は食用油生産における産業廃棄物であるが、(1) 油糧種子は自らの持つ油の酸化抑制のため抗酸化物質を多く持っていると考えられる、(2) 搾油した後の油粕からの探索は、油 (triglyceride) を取り除く手間が省け、(3)且つ廃棄物の資源化の可能性を持つ、という理由から、我々は油糧種子油粕を単離源に抗酸化成分の探索を行っている。
抗酸化物質は同時にプロオキシダントとなり、そのため発癌性が報告されているものもある。一方、糖尿病合併症の原因であるAdvanced Glycation End Products (糖化蛋白質最終生成物、AGEs) の生成には、生体内における酸化が深く関与しているとされており、抗酸化成分がAGEs の生成を抑制する可能性が高いと予想される。本研究では、抗酸化活性のチェックだけでなく遺伝子障害性の有無の確認と、AGEs 生成抑制活性試験も行い、抗糖尿病合併症効果も視野に入れ、安全な抗酸化物質探索を目指した。
【実験・結果】 ベニバナ(Carthamus tinctrius )、綿実(Gossypium hirsutum )の油粕のMeOH 抽出エキスを分離、精製し、ベニバナからセロトニン誘導体(1,2)とその新規の2量体を含む9化合物、綿実から新規セスキテルペン配糖体を含む5化合物をそれぞれ単離構造決定した。各化合物の抗酸化活性をDPPH (diphenylpicrylhydrazyl) ラジカル捕捉活性試験およびロダン鉄法を用いて行なった。その結果、セロトニン誘導体の5種に、α- tocopherol より強く、合成抗酸化物質 BHA に匹敵する強い抗酸化活性が見いだされた。
単離した14化合物のうちベニバナ油粕中に大量に含有されていた1 (0.11%)、2 (0.12%)、3 (0.32%)と3を加水分解して得られた3aの4化合物の安全性のチェックの一つとして、super coiled DNA 切断及び保護活性試験を行なった。その結果いずれもDNA 切断活性を持たず、また、抗酸化活性を示した1、2および3aは過酸化水素によるDNA 切断からDNA を保護する活性があることを観察できた。
AGEs 生成抑制活性試験は、最も簡便な方法としてアルブミンを試験官内で糖化させて生成するAGEs の蛍光を測定する方法を用いた。その結果、セロトニン誘導体(1-2)は対照として用いたaminoguanidine よりもはるかに強く生成を抑制した。
セロトニン誘導体(1-2)は油粕中の含有量が多く、前駆体となるこれらの配糖体も多く含まれることから、これらは有用な抗酸化物質として利用しうるものと考えられる。