角膜実質細胞におけるプロテオグリカン合成について

名城大学薬学部 放射化学研究室

中 澤  清 

 角膜は、その透明性が他の組織には見られない大きな特徴である。角膜におけるこの透明性には、角膜実質の主成分の一つであるプロテオグリカン (PG)、特にケラタン硫酸プロテオグリカン (KSPG) が重要な役割を果たしていると言われている。角膜における PG 組成は細胞外環境の変化や、あるいは角膜が分化し、形成されていく過程で、様々に変化する。それに伴なって角膜が白濁したり、透明性を増したりする。今回これに関連して、PG の糖鎖合成に関与する転移酵素に注目し実験を行った。

 鶏胚の角膜形成過程における PG 合成の変化:鶏胚角膜において、孵卵6日目に初めて KSPG の存在が認められた。これは神経冠由来の細胞が第一次角膜実質層に侵入してくる時期と一致しており、KSPG がこの侵入してきた細胞によって合成されることを示している。しかし初期の KSPG はその KS 糖鎖の硫酸化の程度が低く、8日目以降充分に硫酸化された KSPG が増加していくことがわかった。この過程は角膜の透明化が進行していく過程と一致している。

 細胞培養した実質細胞の合成する PG:角膜実質細胞を生体外で培養すると、KSPG をほとんど合成しなくなることが知られている。この KSPG 合成の減少が糖鎖合成の段階で起きているのか、それともその前の段階であるコアタンパク質合成の段階で起きているのかを明らかにするために、コアタンパク質に対する抗体を使って、合成された PG の分析を行った。その結果、medium 、細胞層の両画分に硫酸化されていない、あるいは硫酸化の程度の低い糖鎖を持つ KSPG がかなり存在することが明かとなった。これは、細胞培養したとき糖鎖自体の合成やコアタンパク質の合成はそれほど減少せず、糖鎖の硫酸化が減少していることを示している。

 転移酵素活性の細胞培養による変化:細胞培養前後の実質細胞を homogenize し、得られた細胞抽出液について、pyridylamino 化したオリゴ糖を用いて、PG の糖鎖の合成に関与する様々の転移酵素の活性を測定した。その結果、KS 糖鎖の硫酸化に関与していると考えられる GlcNAc-6-sulfotransferase の活性が、細胞培養によって特異的に減少していることが明らかになった。これは上の結果と一致する。

 GlcNAc-6-sulfotransferase の精製:上の結果は環境の変化にいち早く反応し、KS 糖鎖合成を調節している key enzyme は GlcNAc-6-sulfotransferase であることを示唆している。そこで孵化2日目のヒヨコの角膜からこの酵素の精製を試みた。細胞抽出液から、CM-Sepharose chromatography と WGA-agarose chromatography によって、22.4 倍に精製された酵素標品を得た。まだゲル電気泳動像において単一のバンドになるまでには精製されていないが、この標品で性質を調べるかぎり、本酵素は他の組織で見つかっている GlcNAc-6- sulfotransferase とは異なる遺伝子産物であると考えられる。