植物廃棄物を研究素材とする抗酸化活性物質の探索
ブドウ‘巨峰’のスチルベノイド
名城大学薬学部 医薬資源化学研究室 丹 羽 正 武
はじめに
ブドウは中国の神農本草経や日本の本草綱目に収載されており,昔から薬用に供せられている。現在でも,東北地方では野生種のヤマブドウを肝臓病の予防・治療の目的で民間薬として使っている。
一方,食用ブドウ”巨峰”は日本では最も多く栽培されている品種である。栽培農家では幹の成長を促し,生産性を高めるために、果実収穫後、樹木表面のコルク層を剥ぎ取り、それを廃棄物として処理している。又、ワイン工場においては、ブドウ果実を取った後の果柄および果実の絞り粕は大量の産業廃棄物となっている。大量に排出される産業廃棄物はそれ自身の処理だけでなく、存在そのものが大きな社会問題となっている。廃棄物は大量にあるにもかかわらず、その利用価値が無いために社会から厄介視されているわけである。しかし、利用価値を見つければ,廃棄物はりっぱな資源に成る得るわけである。しかも、常時、大量に、そして安く入手可能という資源としての必要条件をすべて満たしている。そこで、ブドウ関連の産業廃棄物がヤマブドウの代用となる薬用資源として活用できないかと考え、本研究に着手した。
ブドウ‘巨峰’のコルク層の成分研究
和歌山県の巨峰栽培農家から入手したコルク層をメタノールおよびアセトンで抽出し、得られたエキスを溶媒による分画およびリサイクル装置を設置した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む各種クロマトグラフィーを組み合わせて分離を行った。その結果、現在までに、下記の11種の新スチルベノイドを単離・構造決定することにすることに成功した。さらに、それらの絶対配置の決定を化学的および分光学的手段を用いて行った。1
(+)-vitisin A |
(+)-cis-vitisin A |
(-)-vitisin B |
(-)-cis-vitisin B |
(+)-vitisin C |
|
(+)-vitisifuran A |
(+)-vitisifuran B |
(+)-hopeaphenol |
(-)-isohopeaphenol |
viniferifuran |
(-)-viniferal |
1. J. Ito, et al., Tetrahedron, 55, 2529 (1999), and references cited therein.