海洋産ポリ環状エーテルの効率的骨格構築法の開発

 

名城大学薬学部 薬化学研究室 

森 裕二

 

エポキシドは親電子剤として有機化学上重要な官能基であり、とりわけSharpless 不斉エポキシ化反応が開発されて以来ますます天然物合成中間体としての有用性が高まっている。これに対して、エポキシドそのものを求核試薬として用いた合成はほとんど例がない。その理由として、オキシラニルアニオンという求核種の存在が広く認識されていなかったことやアニオン自身が極めて不安定と予想されるために合成的利用価値がないと考えられてきたことが挙げられる。本講演では、この超不安定求核活性種オキシラニルアニオンを用いたポリ環状エーテルの合成研究について述べる。

 

求核性エポキシドとしてのオキシラニルアニオンの発生と反応

極めて不安定なエポキシアニオンを効率良く発生させること、生成したアニオンを安定化させることを考慮して、スルホニル基で安定化されたオキシラニルアニオンの有機合成化学的有用性を調べた。その結果、THF 中 -100℃で n-BuLiを作用すると、数分以内にオキシラン環がリチオ化され、DMPU, HMPA の補助溶媒存在下、アルキルトリフレラートと収率良く反応することが明かとなった。

 

6および7員環ポリエーテルシステムの効率的合成

海洋産ポリ環状エーテルの基本構造として頻出するのが、6および7員環エーテルである。これらのリングシステムを合成するために、1)オキシラニルアニオン1のアルキル化による2 の合成、2)6-エンド閉環反応によるテトラヒドロピラン環 3の形成、3)環拡大反応によるオキセパン環 4 の構築法を確立した。これらの合成法を基盤として、6および7員環からなるトランス縮環型ポリエーテルシステムの効率的合成を達成した。