沖縄産ハブ毒の新規血液凝固因子

名城大学薬学部 微生物学研究室

二改俊章、小森由美子

[目的]蛇毒中には少なくとも26種類の酵素が含まれているが、そのうちマムシ科とクサリヘビ科の蛇毒中には、トリプシンの合成基質であるa-N-toluenesulfonyl-L-arginine methylester(TAME)を水解して、hemoglobin やcaseinを水解しないアルギニンエステル水解酵素が含まれている。本酵素の生物活性として、1.血液凝固活性、2.キニン遊離活性および3.毛細血管透過性亢進活性を有していることがよく知られており、数多くの蛇毒より、それぞれの生物活性を持つアルギニンエステル水解酵素が単離され、その性質が報告されている。今回、沖縄産ハブ毒より血液凝固因子(HTLE-I)とキニン遊離作用を有する血液凝固因子(HTLE-II)を精製しその生物学的性状を調べた。

[方法]各種クロマトグラフィーを組み合わせて電気泳動で単一なHTLE-IおよびHTLE-IIを単離した。アルギニンエステル水解活性はTAMEを基質として測定した。血液凝固活性は0.2%フィブリノーゲンのclotting 時間とその水解の様子をSDS-PAGEにより測定した。キニン遊離活性はウシプラズマを基質としてラット子宮を用いて測定し、さらに遊離ペプチドをプロテインシーケンサーで同定した。

[結果と考察]HTLE-IとHTLE-IIの分子量はそれぞれ48,000、26,500で、等電点は8.1、5.0であった。両酵素ともAPMSFで阻害されるセリンプロテアーゼで耐熱性の酵素であった。HTLE-Iはヒトフィブリノーゲン、HTLE-IIはウサギフィブリノーゲンに対して最も強い活性を示し、ヒトフィブリノーゲンから前者はFpA,FpBをほぼ同時に、後者はFpAを優先的に遊離した。HTLE-Iは糖タンパク質であり、本酵素をGlycopeptidase Fで処理することにより糖鎖の凝固活性に対する影響を検討したところ、FpA,FpBの遊離量が増加した。N末端アミノ酸配列はそれぞれVKLGREVNIXEHRF,VIGGDEXNINEHPFLVAであり、HTLE-IIは既知の蛇毒トロンビン様酵素との相同性が高かったが、HTLE-Iは相同性が低かった。

現在、多くの蛇毒より血液凝固因子が精製されているが、アルギニンエステル水解活性を示さないHTLE-Iは蛇毒由来血液凝固因子としては初めての報告である。HTLE-IIは強いTAME水解活性とキニン遊離活性を有していた。これは、ガラガラヘビ毒由来のcrotalaseに次いで2番目の報告である。従来、蛇毒は脂肪酸代謝研究、核酸研究、タンパク質の構造研究、薬理学の分野で利用されている。一方、蛇毒血液凝固因子は血液凝固系の解明、診断薬や血栓の治療にも活用されている。今回、我々の精製した2つの新規血液凝固因子がこれら実用面で活用されることが期待される。