ムラサキ培養細胞における cinnamic acid 4-hydroxylase 遺伝子の cDNA クローニングと解析

 

名古屋市立大学薬学部 薬用植物研究施設

水 上  元

 

 Cinnamic acid 4-hydroxylase(C4H)は、phenylpropanoid生合成経路においてcinnamic acidから4-coumaric acidへの水酸化反応を触媒する酵素である。高等植物に広く存在するこの酵素は、ミクロゾーム膜に局在するcytochrome P450-dependent monooxygenaseであり、植物が感染や傷害などを受けたときに生じるphenylpropanoid生合成の誘導に重要な役割を果たしていることが知られている。ムラサキ培養細胞の shikonin や rosmarinic acid 生合成の制御におけるC4Hの役割について遺伝子レベルで解析することを目的として、ムラサキ培養細胞からC4HをコードするcDNAをクローニングし、その遺伝子発現とshikonin、RA生合成の関係について検討した。【結果と結論】ムラサキ培養細胞から構築したcDNAライブラリーをheterlogousなプローブを用いてスクリーニングすることにより、C4Hの全ORFをカバーする2つのcDNAクローン(LEC4H1、LEC4H2)を単離した。その塩基配列から推定したアミノ酸配列は、data bankに登録されている種々の植物のC4H cDNAと80%を超える相同性を有していた。また、そのアミノ酸配列にはヘム結合領域をはじめ、ctyochrome P450に共通な保存領域がすべて存在していた。さらに、単離した cDNAを酵母発現ベクターに挿入して形質転換した酵母のミクロソーム画分にC4H活性を検出することができた。これらのことから、これら2つのcDNAクローンはムラサキのC4HをコードするcDNAであると結論した。 種々の条件下に培養したムラサキ細胞のshikoninおよびRA生産とC4H遺伝子発現量を調べたところ、shikoninおよびRA生産の変動とC4H mRNAレベルの間には有意な相関は認められず、C4Hはムラサキ培養細胞ではshikoninやRAなどのphenolic compoundsの生合成制御に重要な役割を果たしていないことが明らかになった。