マメ科Dalbergia属植物から発がんプロモーション抑制作用物質の探索と応用研究
名城大学薬学部 薬化学研究室 井藤 千裕, 古川 宏
マメ科Dalbergia属植物は、その心材が中国において伝統的な漢方薬の一つとして血液疾患、虚血、リウマチなどの治療に用いられたり、タイでは抗バクテリア薬として使用されている。また、この属の植物には、フラボノイド、イソフラボノイド、プテロカルパン、クマリン、ネオフラボノイド、ロテノイドなど、生合成的に関連の深い一連の化合物が含まれており、成分的にも興味が持たれる。
タイにて採集したDalbergia属植物のエキスについて発がんプロモーション抑制活性試験を行ったところ、Dalbergia nigrescens Kurz およびDalbergia cultrata Graph. の茎エキスに強い抑制活性が認められた。薬理学的および植物化学的興味から、これらのエキスを含む3種のエキスについて成分を検索、以下に示す結果を得た。
1, D. nigrescens 茎エキスからは、新化合物としてシンナミルフェノール3種、2-アリル ベンゾフラン3種、イソフラバン1種、3-アリルクマリン1種、フェニルアセトフェノ ン1種を既知化合物4種とともに単離し構造を明らかにした。
2, D. cultrata 茎エキスからは、既知イソフラボン2種とともに、新シンナミルフェノール 2種を単離し構造を決定した。
3, Dalbergia olivari Grmb. 茎エキスからは、新イソフラボン2種および既知イソフラボン 3種を単離し構造を決定した。
4, 発がんプロモーション抑制活性試験において、単離した化合物のいくつかが 抑制効果 を示した。特にシンナミルフェノール類に顕著な抑制効果が認められ、本化合物は3種 の植物の内、D. nigrescens および D. cultrata には含まれていたが、D. olivari には含ま れていなかった。さらに、シンナミルフェノール類について、数種の化合物を合成した。 合成品の発がんプロモーション抑制活性試験から、プレニル基を持たない合成シンナミ ルフェノール類 (1-3)はいずれも天然品と比べ抑制活性が弱かったが、プレニル基を 導入する (4-6)ことで 抑制活性の増強および細胞生存率の上昇が見られ、プレニル基 が抑制活性増強に重要な役割を持つことが明らかとなった。