ムサラキ培養細胞における有用物質生産の遺伝子制御
名古屋市立大学大学院薬学研究科 分子資源学研究室 水上 元
ムラサキ培養細胞の二次代謝産物であるshikonin(SH)とrosmarinic acid(RA)の生合成は、(1)これらの化合物が種々の生理活性を示すこと、(2)その生合成経路がかなり詳細に明らかにされていること、(3)細胞の生合成活性を種々の要因を用いて制御することができること、(4)生合成能の異なる細胞株が樹立されていることなどから、第二次代謝の人為的制御を指向した研究のためのモデル系として好適である。我々は、SHおよびRA生合成の制御機構を分子レベルで解明することを目的として研究を実施している。今回の発表会では、SH生合成の異なる2つの細胞株間、およびelicitor添加によってRA生合成を誘導した細胞と非誘導細胞間でdifferential display法を用いてトランスクリプトームを比較することによってSHおよびRA生合成の制御に重要な役割を果たしている遺伝子のcDNAをクローニングし、その機能を解析した結果を報告する。
ムラサキ培養細胞に酵母エキスやmethyl jasmonateを添加すると、RA生合成が急速にかつ一過的に誘導される。酵母エキス添加によって発現が誘導される遺伝子として2つのcDNAフラグメント(F96A, A07A)を同定した。このうちA07AをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、cytochrome P450をコードするcDNAを単離し、その遺伝子産物をCYP98A6と同定した。組換えCYP98A6は、RA生合成の前駆物質である4-coumaroyl-4ユ-hydroxyphenyllactic acidの3-hydroxylase活性を示した。この遺伝子の発現がRA生産の制御に重要な役割を果たしていることを、mRNAレベルと酵素活性レベルで明らかにした。
ムラサキ培養細胞のSH生産株と非生産株のトランスクリプトームを比較することにより、生産細胞で特に強く発現している遺伝子のcDNAフラグメント4種を同定した。このうち、特にSH生産と関連していると推定されたフラグメントをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングし、新規タンパク質をコードしていると考えられるLEPS2を単離した。LEPS2の推定アミノ酸配列をもとにして作成した抗ペプチド抗体を用いてウエスタンブロット分析および免疫細胞化学的解析を行うことにより、このタンパク質は細胞壁のアポプラストに局在しており、mRNAレベルだけでなくタンパク質レベルにおいてもSH生合成と密接に関連していることがわかった。LEPSタンパク質は、SH蓄積の場である細胞壁においてSHのtrappingに関与しているものと推定している。