メキシコマムシ(Agkistrodon bilineatus)毒の新規二量体出血毒の一次構造と機能
名城大学薬学部 微生物学研究室 二改俊章、小森由美子
[目的] マムシ科やクサリヘビ科の毒蛇による咬傷時に引き起こされる著しい症状としては出血、壊死、浮腫、血圧降下および血液凝固延長などが認められる。蛇毒出血因子はその一次構造から1.metalloproteinaseドメインのみからなるもの、2. metalloproteinaseドメイン、disintegrin様ドイン及びCys richドメインからなるのものに分類されている。今回、メキシコマムシ(Agkistrodon bilineatus)毒より、強力な出血活性を有する出血因子、Bilitoxin-1の機能を解明する目的で、全一次構造を決定し,さらに糖鎖の役割について検討を行った。
[方法] 粗毒より各種クロマトグラフィーを組み合わせて、逆相系HPLC、SDS-スラブ電気泳動により単一であることを確認した。アミノ酸組成分析を行い、各アミノ酸含量を推定した後、還元ピリジルエチル化したBilitoxin-1を化学的、酵素的断片化を行い、Protein sequencer、ESI-MSおよびMALDI-TOF/MSを用いて全一次構造を決定し、さらにLook & Seg Modを用いて三次元構造の解析を行った。
[結果と考察]本毒素はmetalloproteinaseドメインとdisintegrin様ドメインの2つのドメインからなることが分かった。しかし、disintegrin族に一般的に見られるRGD配列は存在せず、MGD配列に置換していた。また、Bilitoxin-1はEGTAによりCaを除去すると自己分解を引き起こしdisintegrin様ドメインを遊離したが、血小板凝集阻害活性は認められなかった。また、三つのAsn結合型糖鎖が存在しており、Sialic acidを除去するとプロテイナーゼ活性に変化は見られなかったが、出血活性は約25%に低下した。三次元構造のモデリングの結果からも、三つのHisにより亜鉛がキレートされうる構造であることが分かった。蛇毒由来血小板凝集阻害因子のKistrinとでは、disintegrin様ドメインのM273-G274-D275配列の部位はループの頂点にあり、RGD配列とでは大きく異なっていた。Argと異なり、Metはプラスの荷電がなく、このことも活性が認められない原因のひとつと考えられる。Bilitoxin-1はmetalloproteinaseドメインとdisintegrin様ドメインからなる二量体出血毒素であり、今回我々によって初めて構造決定されたものである。