内在性μ-オピオイドペプチドendomorphinsによる脳機能調節
名城大学薬学部 薬品作用学研究室 鵜飼 良、平松正行、間宮隆吉
オピオイド受容体作動薬は様々な神経系に作用し、神経伝達を調節していることが知られている。たとえば、μ-オピオイド受容体作動薬はアセチルコリンの遊離を抑制し、ドパミン作動性神経系の代謝回転を増加させることが既に報告されている。さらに、内在性μ-オピオイド受容体作動薬のendomorphin-1および -2は疼痛反応や記憶機能など様々な脳機能を調節していることも明らかにされている。本研究では、endomorphin-1および-2をマウスの脳室内に投与し、学習記憶の指標であるY字型迷路試験を行った。またその時点での脳内アセチルコリン含量およびドパミンとその代謝物含量を測定した。
動物にはddY系雄性マウス(28-38g)を用いた。Endomorphin-1および-2は生理食塩液でマウス一匹あたり1, 3, 10および17.5 μg/ 5μlとなるようにそれぞれ調製した。脳室内投与の15分後にY字型迷路試験による自発的交替行動を測定した。また、投与15分後にマイクロ波照射によってマウスを屠殺し前頭皮質、線条体、海馬および視床下部を摘出した。サンプル調製後、高速液体クロマトグラフィー法でアセチルコリン、ドパミンおよびその代謝物のDOPACとHVA含量を測定した。
Endomorphin-1および-2はいずれも用量依存的に自発的交替行動を障害した。また、この障害はμ-オピオイド受容体拮抗薬の投与によって緩解された。一方、海馬のアセチルコリン含量はendomorphin-1および -2によって有意に増加した。前脳皮質では同様な増加が認められたが、有意ではなく、その他の部位でも顕著な変化は見られなかった。また、前脳皮質においてのみDOPAC含量の有意な増加が認められた。
以上の結果から、endomorphin-1および -2はいずれも海馬または前脳皮質のアセチルコリンおよびドパミン作動性神経系に作用して学習記憶障害を発現させ、その作用にはμ-オピオイド受容体を介する可能性が示唆された。
参考文献
Ukai and Lin, Behav. Brain Res., in press (2001); Ukai et al., Eur. J. Pharmacol., 421, 115-119 (2001); Ukai et al., Eur. J. Pharmacol., 395, 211-215 (2000).