研究紹介

質量分析計などの最先端の分析機器を駆使した新規分析法開発を行い、生体分子を高感度かつ網羅的に分析し、生命現象や病態メカニズムの解明を目指します。主な研究内容は以下の通りです。

 ・プロテオミクス、メタボロミクスのための新規分析ツール開発

 ・1細胞質量分析法の開発

 ・病態メカニズムや薬理作用に関するプロテオミクス

 ・質量分析を用いたラン藻類迅速分類法の開発

 ・質量分析イメージング法の開発

 

主な研究内容(水野初教授)

おもに生体内低分子(アミノ酸、脂質など)の高感度・高精度網羅的分析法(メタボロミクス)の開発です。現在、細胞1個の中に存在する分子分析法(1細胞質量分析法)の開発や、生体内のd/l-アミノ酸などの光学異性体の分析法の開発などを中心に研究を行っています。

 

 ・1細胞質量分析法の開発

生きている細胞を顕微鏡で観察しながら、分析対象の1個の細胞内成分を採取し、その中に存在する分子を高感度で検出する方法を開発し、細胞現象メカニズムの詳細な解明を目指しています。この分析法を様々な研究者に利用してもらえるように、企業と自動細胞サンプリング装置の共同開発なども行っています。

 

・薬の1細胞内局在解析

細胞に投与した薬が、細胞内の「どこ」に取り込まれ、「どのように」代謝されるのかを調べることができれば、薬の有効性や安全性を正確に評価することができ、治療効果が高く副作用のない薬の開発につながります。私たちはこれまでに、抗がん剤(タモキシフェン)などの薬剤をヒト肝臓モデル細胞に投与し、タモキシフェンと代謝物の細胞内局在を上記の1細胞質量分析法を用いて解析しました。その結果、タモキシフェン投与細胞内に発現した液胞の中にタモキシフェンの未変化体が局在していることがわかりました。

その他、細胞膜を構成するリン脂質分析により細胞種の判別や、ミトコンドリアなどの細胞内小器官における代謝物の局在や代謝動態の追跡などを行い、生命現象や病態メカニズムの細胞レベルでの解明に取り組んでいます。

 

 

主な研究内容(今西進准教授)

高性能質量分析計を駆使し、生体内タンパク質の網羅的解析(プロテオミクス)を高感度かつ高精度に行える分析法の開発に取り組んでいます。また質量分析による環境中微生物の分類・同定法の開発にも取り組んでいます。

 

・質量分析を用いたラン藻類の分類・同定法の開発

 生活排水などに起因する湖沼や海洋の富栄養化によりラン藻が異常増殖することで、カビ臭の発生や溶存酸素の低下、pHの上昇などが重大な環境問題となっている。ラン藻が湖沼などで水面に集積し濃い緑色を呈する場合を特にアオコと呼びます。ラン藻には数多くの種が存在し、強烈なカビ臭を出すものや、毒素を産生するものがあります。ラン藻の種を簡便・迅速に判別できるようにするため、質量分析を用いた分類・同定法の開発に取り組んでいます。

 

 

・質量分析を用いた生体内タンパク質の網羅的解析およびリン酸化部位の高精度・高感度分析法の開発

 生命活動において、酵素や細胞内情報伝達、免疫機能や遺伝子制御など様々なところでタンパク質は機能し、重要な役割を担っています。これらタンパク質の分子群の総体をプロテオームと呼び、これらを解析することをプロテオーム解析またはプロテオミクスと呼びます。患者や疾患モデルマウス、また薬物投与前後のプロテオームを比較定量することにより、疾病メカニズムや薬理作用において重要なタンパク質の同定を目指します。

 また、タンパク質は、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化などの翻訳後修飾を部位特異的に受けることで、機能の発現・調節が可能となります。特にリン酸化は、細胞周期、増殖、アポトーシス、シグナル伝達経路といった、様々な細胞プロセスの調節において重要な役割を果たします。タンパク質リン酸化部位の網羅的かつ高精度・高感度な分析法を開発するため、試料調製法や測定法を検討し、また独自に開発したソフトウェアを駆使したデータ解析法の開発に取り組んでいます。

 

 

 

主な研究内容(杉山栄二准教授)

 生体組織のスライス標本に含まれる様々な成分の分布を可視化する「質量分析イメージング」の感度と選択性を向上させ、これまで見えなかった分子の組織内分布を可視化することを目指しています。現在は、キラル分子とその鏡像異性体を見分ける独自のイメージング法の開発に注力しており、外部の研究者と連携しながら研究を進めています。

 

 ・質量分析イメージング法の開発

 病院では、組織の病変部を一部取り出しスライス標本として顕微鏡で観察する、病理検査が行われています。この検査では、細胞の構造やマーカー分子の発現などを調べ、鑑別診断や病期(ステージ)の評価を行います。これらに用いられる分析技術は、正確な診断や適切な治療の選択だけでなく、新たな疾患の分類や創薬に貢献してきました。病理検査で解析できない分子は未だに多く、更なる新技術の開発が必要とされています。

 質量分析イメージングは、病理検査への応用が期待されている代表的な手法の一つであり、特に低分子化合物の解析に有用です。各分子の持つ僅かな部分構造の違いを見分けながら、一度に多数の分子の分布を調べることができます。

 私たちはこれまでに、この手法に関する技術の開発と応用を進め、様々な新知見を報告してきました。例えば、特定の脂質が異常蓄積する難病のモデルマウスを解析し、蓄積が進みやすい部位や、新薬候補分子の投与がもたらす蓄積量の低下が「どこ」で「どの程度」生じるかを明らかにしました。また、マウス脳に含まれるセロトニン、ドーパミン、ノルエピネフリンの分布を詳しく調べ、これまで見過ごされてきた重要な脳部位を見出しました。

 現在は、D-アミノ酸などのキラルな低分子が種々の病態(がんや統合失調症、慢性腎臓病など)に密接に関わることが明らかになってきたことに着目し、それらの分布を鏡像異性体と区別できる新手法の創出を進めています。具体的には、同一m/zのイオンを分離できる分析法(イオン移動度分析)にキラル誘導体化を組み合わせたイメージング法を構築するために、新規試薬の合成やそれを用いた種々の検討を行っています。また、外部の研究者と共に関連技術の開発や病変組織の解析などを進めています

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