研究紹介
医薬品情報学研究室では下記の研究を行なっております。
主な研究テーマ
・臨床マインドにもとづく薬剤・製剤探索に関する研究
・データベースの作成・研究
・副作用診断を目指した副作用のリスクファクタ及び自覚症状に関する研究
・臨床腫瘍学・緩和医療学に関する量的・質的研究
・医薬品適正使用に関する研究
研究内容紹介
1.臨床マインドにもとづく薬剤・製剤探索に関する研究
医薬品の開発技術が飛躍的に進歩し、切れ味の鋭い新薬をはじめ、多くの薬剤が治療の場に供給されている。しかし、実際には患者の病態及びニーズの多様性、例えば、含量や剤型の面、また薬理効果の面から市販品では対応できない疾患も数多く存在する。そこで、市販品で対応できない患者に対し、薬剤師は医師との協議のもとに院内で製剤を調製(院内製剤)し、患者のニーズと市販品の間の溝を埋めている。これらの製剤は、リスクマネージメントのために安全性や利便性を追求した製剤、救命に直接結びついている製剤など多岐にわたっている。院内製剤を調製することは極めて重要な薬剤師の職責であり、院内製剤が果たしている貢献度は高い。基本的に院内製剤は、治療を目的とし他に有効な治療薬がない場合に使用されるが、情報量が少なく、未解明な部分の多い製剤でもある。医療現場からの要望に対し患者の病態に適した医薬品を病院内で製剤化できれば、患者は多大な恩恵を得るばかりか、薬剤師の専門性
を強く示すことができ医学薬学の発展にも大いに貢献することになる。そこで、臨床マインドにもとづく薬剤・製剤探索に関する調査研究を行っている。
2.データベースの作成・研究
医薬情報管理による医薬品の安全性の確保をめざして、副作用と中毒に関する症例報告の独自のデータベース(CARPIS:Case reports of Adverse Reaction andPoisoning Information Services)の作成及び研究を行っている。本データベースは、国内で報告された副作用と中毒に関する症例報告を収集し,独自のデータベースとしたものである。1987年より作成を開始し、現在約80,000症例を収録している。
原因となった薬の般名や商品名はもちろんのこと、副作用の症状や原疾患などからすぐに該当論文を検索し、参照することができる。本データベースの薬剤疫学への応用を進めるとともに、インターネットへの情報公開を行っている。
3.副作用診断を目指した副作用のリスクファクタ及び自覚症状に関する研究
中毒性表皮壊死症やスティーブンス・ジョンソン症候群, アナフィラキシーショックなど, 医薬品によって引き起こされる生命を脅かすような重大な副作用は後を絶たない。しかし, これらの副作用が発生する患者背景や医薬品等のリスクファクタに関する研究は非常に遅れている。その原因の一つは, これらの副作用の発生率が低いため, 無作為比較試験やコホート研究という信頼性の高い研究方法で解明することが難しいことが挙げられる。近年においては, 薬理遺伝学的検討が進み, 診断に利用されるようになりつつある。しかし, 未だにこれらの遺伝子的検討は, 網羅的ではなくすべての疾患や臨床病態との関連は明確になっていない。また、これらの重篤な副作用を早期に発見するためには、早期発見するための自覚症状を明確にする必要がある。しかし、症状個々の発生頻度や感度, 特異度などの情報が明示されることはなく, 平面的な情報にすぎない。したがってこれらの情報のみでは, 実際に症状を発現している患者を目の前にしても, 副作用が起こっているかどうかの判断や行動が難しいのが実際である。そこで、副作用症例報告をベースとし、重篤な副作用のリスクファクタや自覚症状を明らかにすることを目的とした研究を行っている。
その他にも、薬剤疫学の医薬品適正使用への応用に関する研究、薬剤疫学的手法による医薬品情報の構築・評価に関する研究、副作用回避もしくは重篤化回避の医療経済的評価に関する研究、医薬品情報の伝達方法に関する研究、至適投与設計のための薬物体内動態の解析に関する研究も行なっている。
4.臨床腫瘍学・緩和医療学に関する量的・質的研究
がん患者さんのために、薬学・薬剤師は医療人として何ができるか?という臨床疑問に挑戦するため、終末期がん患者の生命の質(Quality of life: QOL)と多剤併用療法の関係などの量的研究と、在宅医療と緩和ケアで多職種連携医療を実践した場合、薬剤師が関与することでどのような影響を与えているのか?などの質的研究を組み合わせ、エビデンスの創出を行っている。