医薬品の開発、有害反応の情報収集と伝達、科学性・倫理性の調和


II 医薬品の開発
II-1.非臨床試験  図:新薬の開発プロセス
  a.製剤試験 --- 生物学的活性の探索または検索前に検討
  b.毒性試験 --- ネガティブデータでも安全とは限らない。GLP
  c.薬効薬理試験 --- 病態モデルの活用と限界
  d.一般薬理試験
  e.薬物動態試験 --- 吸収、分布、代謝、排泄 
  f.ヒト由来試料による薬物相互作用試験 1998年〜


II-2.臨床試験への導入
  a.非臨床試験と臨床試験の関係
    動物とヒトとの間の種差:動物での結果が必ずしもヒトに当てはまらない。
                予測できなかった作用や副作用が現れる可能性がある。
  b.臨床試験へ導入するための非臨床試験とその minimal requirements
    ・安全性とは、容認しうるリスクを含むもので、相対的なもの。薬によって患者が得られるメリットとそれに伴うリスクの比で評価すべき。
    ・臨床試験の進行中に疑問・必要が生じた場合は、いつでも非臨床試験で再検討を!
      図:医薬品の開発(p.16)


II-3.臨床試験の進め方 --- 治験とは
  a.第 I 相試験:健常人、ヒトにおける体内動態、安全性、(薬理作用の確認)
  b.第 II 相試験:少数の患者、適応症、投与量、投与方法、安全性
   1)前期第 II 相試験:有効性の確認 表:前期第 II 相試験の目的
   2)後期第 II 相試験:至適投与量の決定
  c.第 III 相試験:比較的多数の患者、薬の有効性と安全性の確認
     --- 無作為化二重盲検比較試験
  d.第 IV 相試験:発売後の試験、安全性・副作用調査が主たる目的、GPMSP
  e.副作用の取り扱い  --- 薬物投与中に生じたすべての不都合な出来事を有害事象として記録。副作用ばかりとは限らない。


II-4.臨床薬効評価の方法と実際
  a.臨床試験の必要性 --- 偶然的な日常経験、動物実験との違い
  b.臨床試験の分類 --- 臨床試験(clinical trial : CT)は、実験!、無作為化RCT
  c.臨床薬効評価  --- 3つのバイアス、患者の病態像は一定不変ではない!
    @病気の自然変動 ⇒ 比較試験  図:プラセボと薬物による反応の構造的理解
    A個体と病態のバラつき ⇒ 無作為化試験
    B評価の主観性 ⇒ 二重盲検法(double blind (masking) test)
    「試験群と対照群とに無作為割り付けをし、できるなら二重盲検法を用い、前向き、同時的に、そして全期間公平な管理のもとにおいて比較を行う」努力が重要
  d.臨床試験における実験計画: 表 統計解析関連事項
     --- 臨床試験のための統計的原則:偏りを最小、精度を最大にすることを目標
  e.試験デザイン
   1)無作為割り付け
   2)二重盲検法
   3)プラセボとプラセボ反応
   4)狭義の試験デザイン
    a)並行群間比較試験
    b)クロスオーバー試験
    c)漸増試験
  f.統計手法
    ・5%未満で有意とは、本当は、πA=πBである時(両群に差がない時)に、誤ってこれを否定してしまう危険性、第1種の過誤が20回に1回未満であること。
    ・有意差があることが、臨床的に有意義であるとは限らない!


  g.CRC・CRA の業務とその役割
    ・新GCP(1998年4月〜)--- 科学性、倫理性、信頼性の高い治験を進めるために、プロトコール遵守、インフォームド・コンセントの文書による取得、モニタリング・監査などを厳格に実施すること
   1)CRC の業務 表 
   2)CRC の役割
      @ 治験の科学性、倫理性、信頼性を保証する。
      A 被験者(患者)の安全、人権、福祉を保証する。
      B 患者教育、相談、観察などの患者ケア
      C 治験担当医師への協力
      D 治験にかかわる医療スタッフへの説明、調製
      E 被験者(患者)データの収集と管理
      F 治験に必要な文書、書類などの事務管理
   3)CRC の養成
   4)CRA(clinical research associate)“治験モニター” の業務とその役割 
    a)治験開始前 --- IRB への手続き業務 他
    b)治験開始時
    c)治験実施時期 --- 治験のモニタリング
    d)治験終了時


I-4.科学性と倫理性の調和
   ・優れた医薬品が開発され、現在の我々が恩恵を受けているのは、先人が薬物の有効性、安全性を検討するため被験者となってきた。
   ・薬物により、いくつかの悲劇(薬害)が起こってきた。
 臨床的に有用性(メリット)があることが重要:多少の有害作用(毒性)があっても、それを超える有効性(薬物が病態を改善する作用)があり、患者にとっては有益である事


  a.ヘルシンキ宣言 --- 治験に限らず、ヒトを対象としたすべての臨床試験の倫理的規範
    「医学の進歩は研究に基づいているが、これらの研究の一部なりとも、最終的にはヒトを対象とした試験にによらなければならない」、「学術的な知識を深め、かつ苦しんでいる人々を助けるためには、研究室での試験から得られた成果をヒトに応用することは必要欠くべからざるもの」
    ・臨床試験(治験):基礎研究から“臨床的に有用である”と思われるものについて、最終的にヒトで検討すること
   必要不可欠な3つの条件:
      @ 倫理性を踏まえ、科学的に適正な臨床試験計画書(プロトコール)を作成し、それを遵守して臨床試験を実施すること
      A 臨床試験を実施する担当医師等から独立した、第3者的委員会(institutional review borard : IRB)で、その試験計画、および被験者への同意取得のための説明が適正であり、試験実施が妥当であることの承認を得ること
      B 臨床試験の実施にあたり、被験者から自由意志による適正な文書による同意が得られること

  b.GCP(Good Clinical Practice):1998年4月〜
    ・治験実施の責任は基本的に製薬企業にあることを明示
    ・“治験責任医師”の業務を明確化 ← “治験統括医師”
    ・IRB の機能の強化、医歯薬以外の委員と治験実施医療機関と関係ない委員の参加
    ・モニタリング、監査の義務化とカルテ開示への患者からの同意
    ・治験事務局の設置

  c.IRB(Institutional Review Board):治験審査委員会 --- 薬剤師の立場
    ・二重盲検法試験が科学的に優れていても、倫理的に問題となる場合がある。
    ・非専門家委員の存在、医療機関以外の委員を含め、5人以上で組織する。

  d.Informed consent(説明同意) 
    ・文書による被験者の明確な意志の確認が、臨床試験の質を高め、より良い薬効評価をするために大変重要なものであることを認識する。
    ・臨床試験とは、何故必要か、何故あなたに被験者をお願いするのか、もしも症状に悪影響があったら、などを説明   ex. 表 被験者への説明事項

  e.新 GCP 施行後のわが国の問題と対応
    ・CRA、IRB、CRC の活動