比較認知科学研究所(名城大学大学院薬学研究科/総合学術研究科)  
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研究テーマと概要 

研究テーマA 「脳の発達とストレス」

課題A-1)ストレスによる学習・記憶障害とその分子基盤


研究者 :平松正行

 脳と免疫機能のクロストークや相互作用に環境ストレスがおよぼす影響を検討するには、倫理的な問題から、動物実験でなければ成しえない研究と、ヒトを対象として行われるべき研究の双方がダイナミックに統合されて、初めて色々なことが明らかになってくると思われる。これまでの報告で、例えば強いストレスの一つである拘束水浸ストレスを長時間負荷すると、マウスは胃潰瘍引き起し、学習・記憶機能が障害されることが明らかになっている。このような強いストレスを受けると、脳内で酸化ストレスが増加し神経細胞が障害を受けるのと同時に、ストレスに対する防御反応として、視床下部−下垂体−副腎系が活性化され、コルチゾールなどのストレス応答ホルモンが分泌される。このホルモンは、血液にのり脳内に戻ってきて、記憶の座の一つである海馬の神経細胞を障害する可能性が指摘されている。また、昔から“病は気から”というように、ストレスを受けて精神的に弱くなっている時には病気に罹りやすいことから、強いストレスを受けると免疫系の機能が弱くなることが示唆されている。したがって、本研究では、電気ショックストレスと心理的ストレスを負荷することが可能な装置を用い、それぞれのストレスを受けたマウスの学習・記憶機能を行動薬理学的に検討し、その変化と、免疫機能の変化、さらにはホルモン系の変化を同時に検討することにより、これらの系のクロストークを調べる予定である。今回の研究では、まず、動物実験レベルで、種々の強いストレスが負荷された時に、脳の機能がどのような変化をするのか、学習・記憶機能を中心に検討する。 

課題A-2)ストレスと免疫応答


:打矢惠一

 上記の内容に加え、病原体や腫瘍に対する防御能力への影響について検討を行う。脳の機能変化が生じた時に、ホルモン系や免疫機能がどのような変化を受けるのか、これらがどのようなクロストークによって生体のホメオスタシスを維持しているのか、さらにストレスを緩和するように働く神経系や免疫系の機能変化について明らかにする。

 

課題A-3)ストレスと脳機能疾患における分子基盤研究


:伊藤幹雄・小島良二

 アルツハイマー病に代表される種々の神経変性疾患では、β-アミロイド、α-シヌクレイン、パーキン、ポリグルタミン蛋白質、SOD1などの異なる変性タンパク質が凝集・蓄積し、結果的に細胞を死に導くものと考えられてきている。一方、新規分子Osp94 は変性蛋白質の凝集抑制と再生作用を有する分子シャペロン蛋白質(ストレス蛋白質)であることを見出している。そこで、本研究では、変性蛋白質の凝集・蓄積という神経変性疾患に共通した分子メカニズムに着目し、Osp94の分子シャペロン機能を応用し、それによる変性蛋白質の凝集・蓄積により誘起される神経変性細胞死の抑制作用を明らかにすると共に、変性蛋白質による小胞体ストレス誘起における分子シャペロン蛋白質の関与を明らかにする。

 

課題A-4)脳と環境:環境ストレスのホルモンおよび脳・神経系への影響


:小嶋仲夫・植田康次

 課題A-5)学習記憶および情動に及ぼす発達期隔離ストレスの影響:山田清文 脳・神経系の発達に影響を与える環境要因とその作用機序を明らかにする。その際、胎児期脳・神経系の形成あるいは老年期疾患に対する環境化学物質の影響について調べる。また、脳とこころの発達における社会や家庭環境の影響を明らかにするために、離乳直後から長期隔離飼育したマウスの学習記憶能や情動性の変化を解析すると共に、海馬における神経新生との関連からその分子基盤を解明する。

 

研究テーマB 「脳とこころの病気」

課題B-1) ストレス脆弱性における基礎的研究


:鍋島俊隆・間宮隆吉

 課題B-1) ストレス脆弱性における基礎的研究:鍋島俊隆・間宮隆吉 ヒトの少年から青年期、妊娠期および老年期に受けるストレスに対する応答についてマウス(膜アダプター蛋白遺伝子改変動物、妊娠マウスと生まれてきた仔、老化促進マウスなど)を用いて検討する。電気あるいは強制水泳のような身体的ストレスだけでなく、高所あるいは攻撃的マウスに曝すことによる心理(精神)的ストレスを暴露されたときの応答や飼育環境がストレスにどのような影響を与えるかを行動薬理学的および機能形態学的に観察し検討する。また、ストレスへの対処法および治療薬を開発する。

 

課題B-2)神経変性疾患におけるストレス応答機構の解明


:金田典雄・村田富保

 パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病などの発症関連遺伝子をクローニングし、発症関連遺伝子の発現のオン/オフを厳密に制御することのできる神経細胞株を樹立する。これら神経変性疾患の発症関連遺伝子の発現が制御された神経細胞株を用いて、発症関連遺伝子の翻訳産物と相互作用する結合蛋白質を同定し、発症関連遺伝子産物の発現による細胞内ストレス経路を調べる。また、この経路を抑制するシグナル伝達経路を同定し、発症関連遺伝子産物によって活性化される細胞内ストレス経路を阻害する神経栄養因子や天然物化合物などの分子を探索する。

 

課題B-3)神経栄養因子または、神経栄養因子産生促進剤の抗うつ作用および神経保護作用や神経発達への影響の検討


:新田淳美

 うつ病やアルツハイマー病認知障害モデルを作製し、それら脳での神経栄養因子の含有量変化を検討する。抗うつ作用の検討については神経栄養因子の産生が減少している時期で、神経栄養因子産生促進剤(ペプチド)をマウスに投与し、うつ状態の緩解について行動薬理学的実験を行う。一方、アルツハイマー病認知障害モデルでも脳での神経栄養因含量が減少しているようであれば、同ペプチドの効果を行動薬理・生化学的実験をマウスやラットを用いて調べる。良好な結果が得られた条件において、その作用機序を検討する。

 

課題B-4)ストレスと精神障害の発症脆弱性に関る分子の探索


:野田幸裕

 産褥期、人工透析時あるいは自動車運転時におけるうつ・不安症状の臨床解析と精神障害に関与する遺伝子あるいはストレス関連物質の発現変化について検討する。また、実験動物に精神的ストレスを負荷し、うつ・不安様症状を示した動物の遺伝子解析およびストレス関連物質の血中発現量の測定を行う。

 

課題B-5)ストレス脆弱性遺伝子と薬物反応性に関する研究


:岩田仲生・亀井浩行

 ストレスの強度とうつ病や統合失調症の発症・予後に関する予備的調査を進め、簡便な臨床評価法とモデル動物での再現が可能な方法を開発する。また、既に収集した薬物反応性サンプルを用いてストレス関連遺伝子群との関連を検討するとともに、全ゲノム関連解析により新規候補遺伝子の解析をすすめる。新規薬物の標的遺伝子の同定をおこなうと同時に、これらの標的分子に作用する新規薬物のスクリーニングを行い、動物モデルを用いて有効性を検証する。

 

課題B-6)「不安とうつ」を示す患者の分子病態研究:統合失調症におけるストレス脆弱性の探索を中心に


:尾崎紀夫

 臨床症状、薬物反応性、神経画像と認知機能といった中間表現型を具備した統合失調症ゲノムサンプルの収集に関し、従来のサンプルに加えてよりサンプル数を拡大する。機能面で神経発達に関与し、全ゲノム解析の結果から統合失調症発症関連遺伝子座位に存在する候補遺伝子を選択し、これまでに得たサンプルによってゲノム解析を行う。また、ゲノム解析によって遺伝統計学的に有意なリスク遺伝子多型候補に関しては細胞生物学的な検討を行う。統合失調症のストレス脆弱性に関与する標的分子をゲノムレベルから解明し、標的分子に対する阻害薬あるいは作動薬を用いて遺伝子改変動物における行動解析等を行う。 臨床症状、薬物反応性、神経画像と認知機能といった中間表現型を具備した統合失調症ゲノムサンプルの収集に関し、従来のサンプルに加えてよりサンプル数を拡大する。機能面で神経発達に関与し、全ゲノム解析の結果から統合失調症発症関連遺伝子座位に存在する候補遺伝子を選択し、これまでに得たサンプルによってゲノム解析を行う。また、ゲノム解析によって遺伝統計学的に有意なリスク遺伝子多型候補に関しては細胞生物学的な検討を行う。統合失調症のストレス脆弱性に関与する標的分子をゲノムレベルから解明し、標的分子に対する阻害薬あるいは作動薬を用いて遺伝子改変動物における行動解析等を行う。

 

課題B-7)統合失調症の脆弱性遺伝子産物の生理機能や作用機構の解明


:貝淵弘三

 DISC1やDysbindin、Neuregulinなどすでによく知られている統合失調症の脆弱性遺伝子産物の生理機能や作用機構を、分子生物学および細胞生物学的な手法やマウスの発生工学の手法を用いて解析し、ストレスとの関連を明らかにする。また、ゲノム解析によって新たに見出されるストレス脆弱性因子の生理機能や作用機構を解析する。

 

課題B-8)ストレス関連疾患に関するプロテオーム研究


:永井拓

 構造化面接(SCID)で診断を確定させ、薬物治療反応性、認知機能を確認した患者(統合失調症、躁うつ病)および正常対照者の末梢血液からリンパ球を分離精製し、エプスタイン・バールウィルスにより不死化させ株化したリンパ芽球様細胞株を調製する。疾患患者および健常人の蛋白質の発現変化を二次元電気泳動によって比較検討する。患者の薬物治療反応性、認知機能などの情報とプロテオーム解析で発現変化が認められた分子との関連性について分析する。また、新規関連分子の同定を試みるとともに創薬標的の可能性について基礎研究を行う。

 

研究テーマC 「こころの発達とストレス」

 高齢社会の進展により老年期の心の発達とウェルビーイングが社会的課題となったのと並んで、不登校・ひきこもり・ニート・いじめに代表される青少年の社会適応上の障害も解決すべき国家的急務となっている。さらには、子育てノイローゼ等による幼児・児童虐待や中高年の自殺の増加など成人期のストレスと心の葛藤も深刻な問題となっている。ここに、ストレスと社会適応の関係を生涯発達という視野の下に置いて探求していく必要性がある。そこで、本研究では、人間のライフサイクルを6つの発達段階(幼児期・児童期・思春期・青年期・成人期・老年期)に分け、各発達段階の人々を対象にパーソナリティ諸変数を測定することにより、パーソナリティの生涯発達プロセスを捉える研究を行う。その際、特性論的視点および物語論的視点を併用し、かつ生理学的指標も併用することとする。

 

課題C-1)老年期のこころの発達とサクセスフルエイジング


:畑中美穂

 

課題C-2)パーソナリティの脳機能画像研究


:小嶋祥三

 

課題C-3) 乳児の情動および音声刺激の処理における脳内基盤の研究


:皆川泰代

 

課題C-4)抑制機能低下に対する認知訓練の効果についての検討


:矢野円郁