皆さんはどの程度くすりについてご存知でしょうか.また,日頃どれくらい注意を払ってくすりを利用してみえるのでしょうか.平成9年から4年間に,延べ100名以上の看護学校の学生を対象に,「身近なくすり」についてのアンケート調査を行ないました.高校を卒業したばかりの学生が多く,平均年齢は20歳弱ぐらいです.驚いたことに,将来,医療スタッフの一端を担う看護婦(士)を目指す彼らにおいてさえ,身近なくすりに対して適切な認識を持っていない学生が多いことに気づきました.また,彼らが学校を卒業する直前においても,くすりに対する十分な知識を有してないのが現状だそうです.残念なことに,我が薬学部においても,生きたくすりの知識を得て卒業していく学生は,非常に少ないものと推察しています.(くすりをめぐる日本の医療状況)
最近の報道記事によりますと,医療ミスのうち,くすりに関わる間違いが約3割を占め,医療現場における薬剤師の役割が再認識され始めています.しかし,今回最初に取り上げるような身近なくすりについては,患者,すなわち一般消費者である皆さんが,薬局に行けば手軽に買うことが出来ます.また,購入するたび毎にくすりのことを薬剤師に相談する人は少ないと思います.これからのセルフメディケーション(治療の自己管理)の時代,皆さんが是非,くすりに対する正しい認識を持ち,上手に利用していって頂きたいと思います.
そこで今回は,皆さんが普段気軽に口にしているくすりについてどのくらい知っているのかを確認しながら,くすりについて,もう一度考えて頂きたいと思います.
今回は,少しでも多くの人に「身近なくすり」について考えて頂きたいということで,看護学生のアンケート結果から得た情報をもとに,どこの家庭にもある「身近なくすり」の話から始めていきたいと思います.最初は簡単な話から,そしてだんだん専門的な話になって行きますので,最後まで頑張ってついてきて下さい.
お医者さんが書く処方せんなしに薬局で買えるくすりのことを,OTC
薬といいます.この呼び方は皆さんにとってあまり馴染みがないかも知れませんが,いわゆる「街の薬局で売られている大衆薬」で,一般用医薬品や医薬部外品が含まれます.「OTC」とは,Over
the Counter
の略で,皆さんが薬局を訪れ,カウンター越しに薬剤師とくすりの相談をし,くすりを購入する様子を現していますので,最近の大手ドラッグストアでより安くくすりを購入する形態が増えていくなか,この姿はあまり見られなくなってきているかも知れません.近年,世界的な医療保険財政の抑制から,また,患者自身の医療に対する関心や自らの健康を自らで守ろうとする意識の高まりにより,セルフメディケーションの重要性が改めて認識されつつあります.そのなかで,医療用医薬品(医者で処方されるくすり)と有効成分が同一なもので,処方せん無しに薬局で購入出来るようなくすり(スイッチ
OTC)も出てきました.スイッチ
OTC
の中には,使い方を誤ると思わぬ副作用が現れてしまうものもあります.セルフメディケーション(URL)において,病気をコントロールする主役は,患者自身であり,特に
OTC
薬の服用については,患者(くすりの消費者)である皆さんが自己決定権を持っています.しかし,その患者が本当の主役になる為には,皆さんが誤った選択をしないように,医療従事者,この場合は,薬剤師から適正な医薬品情報を得なければなりません.皆さんは,どの程度適切な医薬品情報を持っているでしょうか?
どこの家庭も,OTC 薬を薬局などで購入し,常備薬(家庭常備薬の使い方)として置いていると思いますが,その中でもっとも一般的なものは,総合感冒薬(いわゆる,風邪薬),解熱・鎮痛薬,胃腸薬,便秘薬などではないでしょうか.これらのくすりを今までに一度も飲まれたことがないという人は,恐らくいないでしょう. ここではまず,「風邪薬」を例にとって,少し話を進めたいと思います.
1.熱が出たら,すぐにくすりを飲むほうだ.
2.咳が出たら,すぐにせき止め薬を飲むほうだ.
3.くすりを飲む時は,大抵はその成分を確認している.
4.くすりを飲む時は,用法・用量を確認し,その指示に従う.
5.くすりを飲む時は,副作用について確認する.
6.風邪とインフルエンザのくすりは,同じものだと思う.
7.水がなくても,唾液でくすり(錠剤,カプセル剤)を飲み込める.
8.くすりを飲み忘れることが良くある.飲み忘れたら2回分飲む.
9.食べ過ぎたら,すぐに胃腸薬を飲むほうだ.
10.添付文書(くすりの説明文書)を読んだことがある.
これらの項目に関しましては,講演会のなかで少し説明を加えたいと思います.
「風邪薬」と一言にいっても,色々な風邪の症状がある訳ですので,単に家においてあった風邪薬をどれでも良いから飲めば良いということにはなりません.そこで,まず,「風邪」という病気のことについて,少し勉強してみたいと思います.
皆さんが良く「風邪」と言っているのは,実は,くしゃみや鼻汁,咽頭痛,咳嗽,痰などの呼吸器症状および発熱,頭痛,関節痛などの全身症状と悪心,嘔吐,下痢などの消化器症状を伴う急性呼吸器症状の総称で,これらの症状のでるものをまとめて,医学的には「かぜ症候群」と言っています.原因については,種々の病原があげられますが,8割以上は,ウイルスによって発病していると言われています(かぜの病因).原因の大半を占めるウイルスを退治すれば,風邪は治ると思われるかも知れませんが,実は困ったことに,現在でもウイルスだけを殺すのに有効な,副作用の少ないくすりはありません.医者から抗生物質をもらっていると言われるかも知れませんが,残念ながら抗生物質には,ウイルスを殺す力はありません.抗生物質(URL)は,風邪で身体が弱った(免疫力が落ちた)時に,他の細菌からの感染を防御する目的で,予防的に処方されているのです.では,風邪を治すにはどうしたらよいでしょうか.今のところ最も良い方法は,十分な栄養をとり,安静を保ち,自分の身体の抵抗力で治すのが,副作用もなくベストの方法だと言えます.ただ,上記にあげたような風邪の諸症状は不快ですので,これを少しでも和らげるために,対症療法として,痛み止め,解熱薬,胃腸薬などのくすりの力を借りることになります.そこで,風邪の症状を緩和するために使われているくすりについて少し説明を加えてみたいと思います.
似た名前のくすりでも,それぞれに含まれる有効成分が異なることがあります.配合されているくすりの量ばかりでなく,成分そのものが違っていたりすることも多く,知らずに飲むととんだ副作用がでてしまうことも考えられます.表1および表2(有効成分比較,メーカー別)にその1例を示してみました.これからもおわかりのように風邪薬に入っているくすりの成分の事を分かっていないと,自分の症状にあったくすりかどうかが分からない事が分かっていただけたと思います.購入の際には,ぜひ気軽に薬剤師に相談してみて下さい.
風邪をひいて熱があるからすぐ解熱薬を飲む,これは果たして身体にとって良いことなのでしょうか? 発熱するのは,体が病原体と闘っている証拠です.風邪ウイルスに感染して2日〜7日でウイルス量はピークに達しますが,通常39度以上の高温環境は,ウイルスが生きていくのに不利だと思われます.また,大半の風邪ウイルスは,発病してだいたい7日以内に消滅します.従って,解熱薬は,体温が38.5度以上で,発熱のために身体がしんどい時のみに服用した方が無難です.特に小児の場合は,アスピリンやサリチルアミドの服用によりライ症候群という副作用がでることがありますので,比較的マイルドなアセトアミノフェンという解熱鎮痛剤を使用します.また,「医薬品・医療用具等安全性情報158号(厚生省医薬安全局),平成12年1月」では,「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤の使用について」という中で,ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸などの解熱剤を使用すると,使用していない場合と比較して若干ではありますが,死亡率が高かったことが報告されています.くすりを使わず治る病気には,なるべくくすりは使わない方が無難だと思います.
痛みも,生体にとっては大変重要な危険の伝達手段です.痛みがないと,体の異常などが感知できません.痛みがあるということは,すなわち,どこかが悪いという生体からの警告メッセージを受けていることなのです.そのように考えると,先ほどの解熱薬と同様に,頭が痛いとか,腰が痛いとかいって,むやみにくすりに頼るのは問題があるとは思いませんか? しかし,痛みが強く,どうしてもくすりに頼らざるを得ない場合があります.こうした場合は,何故痛みがあるのか原因を考え,ある程度原因が推定出来たならば,対症療法として痛み止めを使うことになります.痛みを和らげるくすりには,色々なタイプのものがありますので,それらのくすりの特徴を知っておいた方が,思わぬ副作用を未然に防ぐ事ができます.例えば,風邪などにより頭が痛くなったり関節が痛くなったとします.この時によく使われるのが,非ステロイド性抗炎症薬(Non-steroidal
anti-inflammatory drugs;
NSAIDs)で,古くから解熱・鎮痛薬と言われているものです.これらのくすりの中には,胃腸障害などの副作用や,他のくすりとの相互作用を起すくすりが数多くあります.
OTC 薬などに含まれている成分ですので,注意(解熱・鎮痛薬の使用上の注意)が必要です.また,一言に頭痛といっても,その要因は色々とあります.風邪による頭痛なのか,肩凝りなどによる緊張性頭痛なのか,片頭痛なのか,見極める必要があります.単に頭が痛いからといって鎮痛薬で痛みを抑えてしまうと,重大な疾病による頭痛との判別がつかなくなってしまうことがありますし,また,用いられるくすりの作用の様式も異なりますので注意して下さい.
くすりによっては,胃を荒らしやすい性質を持っているものがいくつかあります.消化性潰瘍の実に45%がくすりによる副作用で,上記の
非ステロイド性抗炎症薬による消化性潰瘍の発現割合はその約半数を占めているという報告があります.皆さんが良くご存知のアスピリンも,非ステロイド性抗炎症薬の代表的なくすりです.アスピリンを主成分とするバファリンのCMでは「胃に優しい」成分を配合とうたっていますが,その「胃に優しい」成分であるダイアルミネートが胃に良い効果を現す訳ではなく,アスピリンによる胃腸障害を少しでも緩和しようという目的で配合されているものです.お医者さんがくすりを処方する時にも,胃腸薬を一緒に処方して,副作用の発現を少なくさせようとしています.
また,胃腸薬は,他のくすりに配合されているものばかりではなく,常備薬として,どこの家庭にもあるくすりの1つだと思います.しかし,胃腸薬と言っても,その種類には色々なものがあるのをご存知でしょうか?胃や腸の調子が悪くなる原因には,色々な要因が関わっていますので,まず,どうして胃腸の調子が悪くなったのか,その原因を考えてみる必要があると思います.胃が悪いのか腸が悪いのかだけでも,当然用いるくすりは異なりますので,適正な治療薬を選択して欲しいと思います.スイッチOTC
薬の1つであるH2 ブロッカーは,一時期 CM
等で,非常に良く効くくすりのイメージで宣伝され,さらに薬局等でくすりの説明も受けずに買ってきて気軽に服用し,さらに,良くなったからという素人判断でくすりを止めたばかりに,再発し悪化させてしまうというケースが数多く報告されました.皆さんがH2
ブロッカーがどのように作用し,効いているのかを知ってさえいれば,このような事は起きなかったと思います.間違っても,胃腸の調子が悪い時に,胃腸薬ですっきりさせて,また宴会に行くというのは止めましょう.(H2-blockerの説明)
ちなみに,H2ブロッカーはヒスタミンのH2受容体の拮抗薬で,胃潰瘍などを治しますが,ヒスタミン受容体の拮抗薬でもH1
受容体の拮抗薬は,いわゆる抗ヒスタミン薬と呼ばれ,胃潰瘍治療効果はなく,くしゃみや鼻水,鼻詰まりなどの風邪の諸症状や花粉症にみられるようなアレルギー症状を和らげるくすりです.このくすりを飲むと,眠たくなったり,喉が渇いたりといった症状がでることが多いので,注意が必要です.
偶に病院に行くと,外来の窓口で,薬袋いっぱいのくすりを持って帰られるご老人の姿を見かけることがあります.お年寄りになると,身体のあちこちが悪くなり,それぞれを治療するくすりが必要ということなのでしょうが,あれだけ沢山のくすりを飲めば,くすりによる相互作用(副作用)で,良くなるものも良くならないのではないかと思ってしまうことがあります.確かにお年よりは多くの病気を併発されている方が多いとは思いますが,もう少しくすりのことを知り,薬剤師などと相談したりして,必要最小限のくすりを飲まれるほうが良いと思います.患者さんのなかには,沢山くすりをくれる(本当は医療保険などを使って支払われている)お医者さんの方が良い医者で,あまりくすりをくれないのは悪い医者と考えている方もお見えのようです.老人医療により安価に治療が受けられる時代とはいえ,服用して治療効果があるのならばまだしも,必要性の少ないくすりを貰うだけで飲まないのでは,結局医療保険の破綻につながり,患者さん自身の医療費の負担増につながります.逆に,沢山のくすりを飲むことにより,くすりによる相互作用などで考えられないような有害反応が出ることがあり,死因の第4位を占めるというショッキングな報告もあります.この機会にでも,かかりつけ薬局などを決めておいて,自分にとって必要なくすりについて,積極的に薬剤師に相談する事が得策だと思います.
また,アメリカに留学した際にあるお医者さんから言われたことなのですが,日本人は非常に抗生物質好きなのだそうです.風邪を引くと抗生物質,熱が出ると抗生物質,海外旅行には,予防のために抗生物質を携帯するといった具合です.しかも,どういう菌が原因なのかをよく調べもせず,抗菌スペクトルの広い(色々な菌に有効)くすりを,気がねなく?飲んでいるものですから,抗生物質が効きにくい体になっているのだそうです.アメリカ人には,ペニシリンで十分に効く菌に対しても,日本人が耐性菌を持ち込むので,抗生物質が効かなくなってきているという話を聞きました.また,アメリカでは,抗生物質を処方するときは,飲み方をしっかりと守らせるように服薬指導しています.くすりが5日間処方されているとして,3日目位に体調が良くなっても,必ず5日間はくすりを飲みきって下さいという指導です.これは,菌を完全に死滅させ,耐性菌を発現させないための工夫の1つです.皆さんは,症状が良くなったからといって,くすりを飲むのを勝手に止めていませんか? これには,日本において,くすりをもらうとき,「菌を殺すくすり(抗生物質)です.1日4回,食後と寝る前ににお飲み下さい.」という説明はあっても,飲みきって下さいという服薬指導はあまりされていないからでしょうか.
ここで少し抗生物質について勉強してみましょう(詳細は講演の中で行います).皆さんはどうして抗生物質が効くのか,何故,抗生物質が効かなくなる(耐性菌が発現する)のか,またどうしてそれが問題となるのかご存知でしょうか? 1967年から1983年にかけて全国の病院から厚生省に報告された「医薬品副作用報告書」の中では,抗生物質と化学療法薬による副作用が,何と全体の34%を占めていることが報告されています.
まず,用法・用量を守り,薬局で買ってきたくすりや処方されたくすりを勝手に飲みあわせないこと,また,処方されたくすりを飲み忘れないことです.もし飲み忘れてしまったらどうしたら良いでしょうか.
よく同じ症状だからといって,以前にもらった他人のくすりを飲んだりする人がいます.同じ症状でも同じ病気とは限らず,また,人それぞれにくすりの効き方が異なりますので,素人判断で他人に処方されたくすりを飲むのは危険です.また,お年寄りや,腎臓,肝臓機能に障害がある人は,くすりが身体に作用する仕方,程度が変わっていますので特に注意する必要があります.一般的に,上記の方は,くすりの代謝・排泄が遅れるため,作用や副作用が強くでる傾向にあります.自分の飲んでいるくすりについて,良く理解しておくことが重要です.
お医者様は神様と思い,処方してもらったくすりを何の迷いもなく飲む時代は終わっていると思います.良い意味で,自分の服用するくすりはどんなくすりなのか,ちゃんと知った上で服用し,賢い患者になって頂きたいと思います.
8-1.くすりの名前を知ろう!
皆さんは,今飲んでいるくすりの名前を知っていますか? 阪神大震災の時,病院や仮設診療所を訊ねたほとんどの患者さんが,普段飲んでいるくすりの名前を知らなかったために,迅速な対処が出来ませんでした.自分の飲んでいるくすりを知っていれば,災害など万一の時や,旅行の時に役立ちますし,複数の病院にかかったり,薬局でくすりを買う時にも役立ちます.
8-2.「おくすり手帳」を作ろう!
(薬歴の一元管理)
くすりの名前を知っておくといっても,外国語のようなカタカナだらけのくすりの名前を覚えておくのは大変だと思いませんか.そこで良く利用されているのが,「おくすり手帳」を作るというやり方です.複数の医療施設を利用する患者自身が自分自身の薬歴,例えば,普段飲んでいるくすりの事ばかりでなく,自分の病歴,アレルギー歴などを書いておき,さらにそれらを常に医療機関や薬局に行く時に携帯し,処方に際して医師に提示したり,薬局でくすりを買う時に薬剤師に提示することにより,重複投与をはじめ,重篤な相互作用などを回避することができ,患者本位の医薬品の適正使用が実現出来るようになると思われます.また,天災などいざという時や,病院を替えた時にも,現在服用しているくすりのことや,他のくすりとの相互作用などを相談するのに大変役立ちます.
8-3.くすりは正しく飲もう!
今日のお話で何度も出てきましたが,くすりは正しく飲んでこそ効果があります.服用量や飲む時間,回数,注意事項などを必ず守りましょう.うっかり飲み忘れた時はどうしたら良いのか,おさらいしておいて下さい.間違っても,2回分まとめて,何てことはしないで下さい.また,くすりによっては,他の医者からもらったくすりや,薬局で買ったくすりばかりでなく,食事と相互作用(URL)を起こすものがありますので,注意して下さい.
8-4.お医者さん,薬剤師には何でも聞こう,話そう!
くすりをもらったら,自分の飲むくすりの事について分からないこと,不安な事など,遠慮せずに何でも相談しましょう.皆さんは,くすりそのものばかりでなく,くすりに関する情報も買っているのですから.
日本薬剤師会では,Get
the
Answers(ゲット・ジ・アンサー運動:答えをもらおう)を展開しています.この運動は,くすりに関することについて,気軽に薬剤師に尋ねてみませんか! という運動です.具体的に特に大事と思われる質問は,以下の5つです.最低限これらについては,くすりの情報として知っておいて下さい.
1.くすりの名前は?
2.そのくすりの効き目や働きは?
3.このくすりを服用するときに注意することは?
4.副作用は?
5.他のくすり(市販薬)や食べ物との飲み合わせ(相互作用)は?
その他にも,薬局(病院)でくすりをもらう(購入する)とき,聞いておいて欲しいことは色々とありますが,以下に挙げたことは全て聞いておいて損はしない事ばかりです.ここでは上記以外の項目を挙げるだけにしておきますが,これらをメモしておき,次回にくすりを購入する時にでもぜひ薬剤師に説明を受けてみて下さい.
・用法・用量
・効果が現れるまでの時間
・飲む時間が決められているくすりは,何故その時間に飲むのか
・飲み忘れた場合の対応のしかた
・お酒や,タバコの影響はあるか
・もし,くすりの副作用が出たらどうしたらよいか
・くすりの保管はどうしたらよいか
・くすりが変わったときは,何がどう変わったのか
・頓服薬の場合,1日にどの程度まで服用してもよいのか
・症状が良くなったら止めてもいいか
一般消費者にとって,OTC薬
は,医療従事者が考えるより深く受け入れられているように思われます.また,メディアからの情報などにより,医療用医薬品よりも知名度は高く,安全性も高そうに思えます.しかし,OTC
薬も,れっきとした医薬品であり,当然,薬効と副作用を持つ化学物質です.このことを消費者である皆が良く理解していなければ,セルフメディケーションは,くすりの誤用に繋がることになります.
マスコミは,よく「有名人やブランド好き,飽きやすく忘れっぽいから次の話題が来ると前のことをすっかり忘れてしまう」と言われています.また,良いニュースより悪いニュースの方がセンセーショナルで好まれます.またこの性格は,何もマスコミに限ったことではなく,日本人に多く見られる性格のような気がします.戦後,大きな薬害が何度も繰り返されて来ましたが,実際にはあまり大きな教訓として受け止められてはいないのではないでしょうか.医療従事者ばかりでなく,患者である皆さんもが,対岸の火事と思ってしまっては,副作用の発見が遅れてしまいます.またマスコミばかりでなく,厚生省も現状ではくすりの副作用発現頻度を適切に把握・情報発信していないのではないでしょうか.くすりの副作用で10人が死亡したと報道されても,そのくすりが何人の患者を救ったのかについてはあまり報道されません.1000人に使用して1人が死亡するくすりと,100,000人に使用して,3人が死亡するくすりと,あなたはどちらがより安全なくすりだと思いますか?
21世紀は,IT 革命の時代と言われています(くすりと情報).書店で入手出来る「医者からもらったくすりがわかる本」といった類いの本ばかりでなく,もはやインターネットも一般の人が自由に使える時代となり,医薬品情報も,厚生省や製薬メーカーからばかりでなく多くの団体や個人が提供していますし,医師,薬剤師ばかりでなく,一般の患者も自由に情報を得ることができるようになってきました.このような地球規模的に情報公開されていくなかの医薬品情報を,如何に自分たちが活用するのか,これがこれからのセルフメディケーションにも必要となってくると思われます.
消費者は,マスコミ報道や記事に影響をされやすい性格を持っています.最近の状況を見ていても,画期的な新製品の発売,製品の回収,副作用報道,くすりに対するネガティブな報道などにより大きく影響を受けていると思います.また,くすりの広告・宣伝を鵜呑みにする消費者が多いことも問題だと思います.消費者である皆さんが,科学的な眼を持って,ニュースやコマーシャルを見聞きし,色々な情報を分析して,賢く「身近なくすり」を利用して欲しいと思います.
医薬品企業は,直接消費者と交流するため,「くすりの相談窓口」を開いているところがあります.他にも上手にくすりを使うために参考となるホームページがいくつかあります.これらのうち一部を挙げておきましたので時間のある時にでも覗いてみて下さい.
くすりの情報に関するホームページ一覧:
主な製薬会社のホームページアドレス:
消費者相談窓口:
くすりに関する
Q & A :
何度も述べますが,くすりは単に化学物質であって,生体にとっては異物であるということです.食物ならば,食べたものの大半は胃腸などで消化され,アミノ酸など基本成分にまでバラバラにされて再利用出来ますが,異物であるくすりは,胃腸から吸収されて,生体に直接作用するように作られています.言い換えれば,何百万年も前から形作られてきている生物としての生命現象に対し,たかだか100年にも満たない歴史しかないくすりを自分達の身体に取り入れ,生命現象を変化させている訳です.世の中には,くすりを飲みたくなくても,病気で飲まなければならない人たちがいる一方で,くすりをまるでお菓子か何かのように気軽に口にし,くすりが生体にとって異物であること,使い方を誤れば,毒にもなりうる事を,あまり深く認識していない人たちがいます.くすりのことは,医師,薬剤師など医薬の専門家に任せ切り,何か副作用などが出た時には,医療過誤,医療ミスなどと問題にするのではなくて,患者である皆さんも,最低限のくすりに対する知識を身に付け,くすりの良い効果を引きだし,副作用を未然に防ぐ,また早期発見する責任も担って,賢いくすりの消費者になって欲しいと思います.そのためには,厚生省や製薬企業,また医療現場の人たちは,副作用情報などを収集し,不確実な段階のものも含めて,迅速にかつ積極的に公開するシステムが是非とも必要だと思いますし,また皆さんも,これらの情報公開に対応して,どこでどのような情報が入手できるのか,どの情報が重要なのかを判断できるような能力を身に付けておいてもらいたいと思います.その手助けとして,分からない事など,積極的に薬剤師を利用して頂ければ幸いに思います.
今回の講演の中から,基本的な知識を得て,少しは考えてくすりを飲み,上手につきあっていく手だてを少しでも理解して頂けたことと思います.もし,今日の話題で分からなかったところ,質問などがございます方は,お気軽に私までメールを下さい(mhiramt@meijo-u.ac.jp).可能なかぎりお答えしていきたいと思います.なお,今回用いました資料に関しましては,全てインターネット上でみることが出来るようにしてあります.特に文中に(URL)と表示してあるところは,関連するページへのリンクを示しています.Web
上でもご利用頂ければ幸いです.(URL: http://wwwyaku.meijo-u.ac.jp/chem_pharm/mhiramt/EText/MH-seminar-00.htm)
・インフルエンザとかぜ症候群,加地正郎著 ,南山堂,1998年
・OTC ハンドブック 〜基礎から応用まで〜 1999-2000,堀 美智子 監修,学術情報流通センター,1999年
・くすりと情報は使いよう,望月眞弓,丸善,2000年
・New 薬理学,改訂第3版,田中千賀子,加藤隆一 編集,南江堂,1996年